novelsのブログ

お題にもとづいた短編小説やふと思いついた小説を不定期更新します

【感想】第10回短編小説の集い「旅」

 

 




こんにちは。貫洞です。

第10回短編小説の集い「旅」の感想を書かせていただきます。小説、特に一気に読める短編小説が大好きなので、読んでいる時間はまさに至福の時でした。小説ってその世界にどっぷり入れるからものすごく楽しいです!(前回は緊張し過ぎて感想書けませんでした・汗)よろしくお願いいたします! 

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 アキタに自分を強く重ねながら読みました。リアルに先月、会社に行かず逆向き列車に乗った者として、「やっぱり会社に行くのかな」とかドキドキしました。現代に生きる、長時間労働に蝕まれた人間の心理がダイレクトに伝わってきました。このあたりは少しゾクッともしました。アキタはどこへ旅に出たのか、気になります。

 

 

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 「えっ!?」と人類が心配になった小説でした。アラタの提示する条件がすごく良くて、わたしが「俺」だったとしたら良い条件での転生を望んだと思います。「俺」がすごくかわいそうで、現代の寂しさが詰まった人間のように思えました。その「俺」にやっと回ってきた「人助けのチャンス」が目の前から消えてしまうのが、とても哀しかったです。余談ですが、「俺」はわたしの中では福本伸行先生の「黒沢」のような優しい男でした。



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期待していた呪術のシーンが、何と言ってもかっこよかったです! 李里と環那は、育ってきた環境が違っても、どこか気が合うのでしょうね。ふたりが仲良くできるように応援したくなりました。この世界観にすぐ入り込めて、とにかく「呪術待ち」状態でクライマックスを楽しみにしてました! ラストは、「旅」の概念をあらためて考えさせられました。李里がどこかに旅立ってしまうのかと思っていたので、ほっとしました。



masarin-m.hatenablog.com


若すぎてモテる男は身を持ち崩す…というくだりから、自然とPに注目しながら読み進めていました。冒険の途中での、3人の関係と主人公の内面的描写が好きです。冒険はここでおしまい、というほっとするところからの急展開。ナイフで人を切ったらこんな感じなのかとリアルに想像させられました。痛点のくだりは、本当にそうなのかなと、痛みを感じました。



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前回からお世話になっております。感想を書かせていただきます。

LINEの会話が今のリアルなJKっぽくて、お話最後まで一気読みでした。外に出ないけど、旅。ああ、なるほどと感じました。
そして、リンクを貼ってあった「西へ向かう」がかなりのヒットでした。新幹線で隣に座る人がウザイときついんですよね。ウザさがすっと消える瞬間を共有できて、とても気持ちがよかったです。神様の意味が「喜び」という解釈がとても好きです。


 

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自分の小説の振り返りです。

前回主催者様にいただいたアドバイスの「余分なところをバッサリ切る」「時系列の混乱を回避する」「読む人に虚構と現実の線引きをする」を意識して書きました。最初は苦手だった三人称も、これを書く前に練習したら何とか使えるようになり、小説に一歩近づいた気がします。実際、この小説は全く実体験に基づいていません。実体験は「宮崎が食べ物が美味しい」ってことくらいです。どんどん書いて、レベルアップを図りたいです!



kalkwater.hatenablog.com


カムタナクニという世界で、不思議な遺跡から伸びる影。その涼しさを体感して、不思議な内省の旅へ出る、この流れが素敵でした。商魂たくましい君足さんのキャラが立っていて好きです。集光装置などの仕組みをわかりやすく説明していて、世界観が際立って伝わってきました。本当に森へ冒険に行ったとき、影の出来ている場所を探して思い出してしまいそうです。



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前半は「本当に美しい人なのだろうか…出オチということはないだろうか…」と変なハラハラ感で読みました。ふたりが出会ってからはシェリーが主導権を握っているのが面白かったです。好奇心旺盛な語り部に感情移入して読みましたので、AとB両面読みましたが、Aの方がドキドキしました! これからどんな旅が始まるのでしょう? まさに「旅」に思いを馳せたところで物語が終わりました。読後感が「高揚」でした。




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お国柄が出るバス旅行。来ないバス。バスターミナルで暮らすように生きる人々のくだりは旅の香りが漂って、読んでいるだけで旅情に酔ってしまいそうでした。titsとコリーナの関係、コリーナの生活、謎がいっぱいです。続きが更新されるのを楽しみにしております。それまでは想像で楽しみます。



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「旅」を見送る側のお話し、職場の雰囲気も良さそうで、素敵なお仕事だなと思いながら読み進めました。個人的に電車の乗務員の仕事にとても興味があったので、前半は旅情を楽しんでいました。しかしまさかの出会いに、まさかの展開、ふたりが無事再会できることを願わずにはいられません。

 

 

 

hayami-toyuki.hatenablog.com


子ども用スマホって画面が小さくてチョット見づらいんですよね。。すみません、スマホに目がいってしまいました。小学生の女の子がお母さんに会いに行く冒険の旅、トラックにドーベルマンにヤンキーぽいお兄さん、世の中って怖いなぁと子ども目線で思いながら読みました。茜ちゃんがとてもかわいそうで切ないです。。


 

sakuramizuki20.hatenablog.com

 
レイがどんな姿なのか、最後まで想像できませんでした。ちょっとびっくりです。旅立ちの姿は目に浮かんできました。こういう体験が小説の中で一番好きです。(目の前に姿かたち、風景が浮かんできたとき)孤独な種族にも心があって、人間より少し、群れなくて大丈夫、少し長く生きる、少し不思議なことが起こせるということに「憧れ」を感じました。面白かったです。

 

 

 

hjsmh.hateblo.jp

 

 お母さんが人生で最後まで貫き通そうとしているお父さんへの愛情が、びっしり伝わってきました。自身を重ねてしまったのもあるかもしれません。長年連れ添った人と老後を迎えられることは「しあわせ」だと思います。それが欠けてしまった人は、自分を鼓舞して強く生きるか、別のしあわせを探しにもう一度旅に出るか、選択を迫られる。

…すみません、お母さんにばかり注目して読んでしまいました。息子が誘ってくれる旅行は、お父さんだけを愛することを選んだお母さんにとって、優しい時間になると思いました。

 

 

 

nisinao.hatenablog.com


眼だけで旅をするんですね! 旅を請け負った少女のさばさばとした感じが好きです。最近テレビ番組で、旅の番組が充実していると聞いたことがあります。視覚、聴覚は完全に旅に行った気分になれると言っていたのを思い出しました。
手のひらに眼がある、という世界がとても新鮮でした。





感想は以上です! 今回も楽しく参加させていただきました!(万一感想が抜けていたら教えてくださいませ)

主催者様、素晴らしい場所に参加させていただき、ありがとうございます! 「納涼フェスティバル」の方も参加予定です! 


それでは、また。
 

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【第10回】短編小説の集い参加作「ひみつの花園」




こんにちは。貫洞です。二回目の参加をさせていただきます。

前回、初めて人に自分の小説を読んでもらいました。主催者様、参加者様の感想がとても丁寧で、アドバイスも頂き、強く感謝しています。今回から、わたしも「皆様の小説の感想を書く」ところまで参加したいなと思います。


では、よろしくお願いします。
 

novelcluster.hatenablog.jp

 



ひみつの花園

「派遣会社プロチュアを退職しました」

 われながら流行に乗ったタイトルだと亜由子は思った。今日のエントリはきっと、ブログサイトのトップに掲載されるだろう。7月のPVは20万いくかもしれない。亜由子はayuというペンネームでブログを書いていた。「20代女性のリアルな日常」の描写が妙に生々しく、開設一年目にして、ちょっとした人気ブログになっていた。亜由子を模して描かれた、ロングヘアをきゅっと一つに束ねてにんまり笑ったイラストのアイコンも好評だった。

 派遣会社プロチュアは、その名の通り、未経験者でも自社の独自研修でもってプロとして働ける、高時給が得られることを売りにしている異色の派遣会社だ。派遣会社だが面接は厳しく、泣きながら研修を受けるスタッフもいる。その異色さからメディアにも取り上げられ、知名度も高かった。しかし営業の仕事は激務であり、亜由子は心身ともに疲れ切り、入社四年目にして退職を決めたのだった。

 
「わたしは本当はライターとか小説家とかになりたかったんだ」

 亜由子は化粧をしなくても長いまつげを伏せて、つぶやく。ブログだってこんなにたくさんの人に読んでもらえているのだ。きっと私の天職は「書く」ことだ。まずはゆっくり休んで、それからものを書く仕事に就こう。


 亜由子は旅に出ることにした。海外は怖いから国内、あたたかい場所ということで宮崎県へと向かった。ホテルは一泊四千円も出せば温泉付きの綺麗なところに泊まれる。街は人口のわりに繁華街が密集していて便利だ。そして食べ物がすごく美味しかった。東京にも美味しいものはあったが、それはとても高いお店ばかり。宮崎は安くても美味しいものが食べられる。亜由子は宮崎をすっかり気に入り、しばらく滞在を決め込むことにした。

 当初は夕食をラーメンやうどんなど、入りやすいお店で済ませていたが、やがて居酒屋にも一人で入っていくようになった。亜由子はほどほどにお酒が飲める。孤独のなんとかという番組の影響もあって、一人客は意外に多いのだ。

(美味しい! 鶏も豚も牛も、肉の味自体が違う気がする。……わたし、グルメライターになってもいいかな)

 亜由子は心の中で食べ物の味を文字にして描写していった。これは亜由子が一人で食事をするときの癖になった。

 亜由子はある居酒屋を気に入り、何度か通っていた。カウンター席で、何度か顔を見たことのある五十代の男性から話しかけられた。どこか哀愁漂う雰囲気ではあるが、白髪交じりの頭髪は整えられ、日に焼けた肌が健康的だ。物腰も柔らかく身なりもいい。会話の内容も、あそこの海がきれいだとか、どこの何が美味しいとか、旅行者の亜由子にとって楽しい話ばかりだった。一人で飲み食いするのにも飽きていたので、亜由子は男性との世間話を楽しんだ。


「……この季節なら、まだ間に合うかなあ」
 少しの沈黙を破って、男性はぽつりとつぶやいた。
「何かあるんですか?」
 亜由子は身を乗り出した。胸まである黒髪ロングが揺れる。

 男性はうーん、と少しあごを突き出して何か考え、ひとつ頷いて話し始めた。少し不便な場所だが、天国と見まごうばかりの美しい場所があるということを。その場所はちょうどこの夏の時期、赤と黄色と青の花が咲き乱れるのだという。それだけの景観を持つ場所は日本にそうそう無い。そしてその景観を守るため、外部の人を呼ばないようにしており、マスコミも観光客も、誰も知らない場所なのだそうだ。もちろん亜由子も、そんな場所があることすら知らなかった。ガイドブックを何冊か読んでいたが、載っていた記憶はない。

 亜由子は男性の話を聞きながら、その場所を頭の中で文章にしていた。

「眼下に広がる一面の小さなピンクの花と菜の花の黄色、ネモフィラの水色。あるところは整然と、あるところは混在していて、この世のものと思えないほど美しい」

 ……情報が足りない。もっと心揺さぶる文章が書きたい。そのために、どういう景色なのか、この目で見たい。きっとまだ誰も知らない情報だ。あわよくば「ひみつの花園」というタイトルで記事を書いてもいい。「ayuさん、ここどこですか?」「きれい! ayuさんと同じ景色が見たーい!」そんなコメントが咲き乱れる様子を想像して、亜由子はにんまりと顔だけで笑った。明日にでもその場所へ行きたくなった。

 男性は亜由子に、絶対に公開してはだめだよ、と何度も念を押した上で、手元にあったチラシを裏返し、電車とバスの乗り継ぎだけを書いた。そこから先は道順を口頭で教えてくれた。

「ひみつの花園だからね。絶対に公開してはだめだよ

 男性は右の口角を持ち上げてそう言った。何度か言われたが、最後の念押しのときにふと、公開、の発音が宮崎なまりに変わった。「こうかい」の「こう」の方にアクセントが置かれるのだ。誰にも言わないから、と頷いた亜由子は、さっそく翌朝出かけることに決めた。


 地元の人しか行かない場所だけあって、電車とバスを乗り継ぐだけでも一苦労だった。明け方にホテルを出たのに既に日は高い。でも、観光客が行かないような場所、それも絶景スポットに自分は向かっている。亜由子は高揚する気持ちをおさえて、男性の言葉通りに歩みを進めていった。(確か、最初の二又を右折して、大木を通り過ぎたら急な上り坂。ここを登りきったらあとは一本道……)ふうふう息を切らせながら急な坂道を登った。登りきった亜由子は、暑さと疲れで日陰にあるベンチに座り込んだ。ここからまだ一時間以上歩くのだ。少し休んでおいたほうがいい。

 駅で買ったペットボトルのお茶を口に含む。ぬるくなっている。それでも渇きが癒され、亜由子はふう、と落ち着いた。

「ここまでの道順をメモしておこう。早くひみつの花園が見たい」

 そこへ一台の白いワゴン車が通りがかった。いかにも家族連れが乗るような車だ。たくましくてやさしそうな男が運転している。助手席には目深に帽子を被った女性、おそらく奥さんだろう。ちらりと見える紅の色が美人であることを物語っている。後ろの窓からはビン底のように厚い眼鏡をかけた男の子が一人、顔をのぞかせている。車はゆっくりと亜由子の近くで一時停止した。眼鏡の男の子が窓を開けて話しかけてくる。

「おねえちゃん、まいごなの?」
「まいごじゃないよ、暑いからひと休みしてるんだよ」
「おねえちゃんも、お花を見にいくの?」
「えっ? うん! そうだよ!」

 そこまで話したところで運転席からバンという音がして、父親らしき男が降りてくる。

「地元の人間以外でここに来るなんて珍しいね。おしゃべりなオッサンにでも聞いたんか?」
「あ、はい。市内の居酒屋で聞いて、来ちゃいました」
「ここからあと10kmはある、歩いたら二時間以上かかる。行く場所は同じなんだし、乗っていきや」
「おねえちゃん、後ろ広いよー!」

 亜由子は少し迷ったが、ここからはただ一本道を歩くだけと聞いている。この暑さの中、10kmを一人で歩くより、ここは甘えよう。

「お願いします」

 亜由子は頭を下げ、後部座席に乗り込んだ。男の子は後部座席に備え付けのディスプレイでアニメのDVDを観ていた。一緒に観ようとねだってくる。外の風景を見る暇もないほど、男の子は亜由子に甘えた。視力が悪いらしく、DVD画面に顔を近づけて観ていた。


 30分程走った頃だろうか? 車はゆっくりと速度を落とし、停車した。見回しても花園という雰囲気ではない。山道の中にある小屋の前、だ。なぜ今まで気づかなかったのだろう? 男の子が執拗に甘えてくるから、外の風景に気を配れなかった。

 木々が多いためか、昼間なのにそこは暗い。亜由子は背中がゾッと冷えるのを感じた。ここは花園ではないと本能で察した。亜由子が呆然としている隙に、助手席の女性は男の子を連れてサッと車を降り、走って小屋の裏手に去っていった。男の顔はもう、やさしそうには見えなかった。亜由子はこれから自分がどうなるのか、そしてここが日本のどこなのかも理解できないまま、ただただ震えていた。


 
 

 市内の居酒屋。亜由子にひみつの花園の話をした男性は、カウンターでため息をついていた。男性は、その居酒屋で毎日酒を飲み、足が付かなさそうな女性を花園に送り込むことを生業としている。一人花園に送り込むと、三十万円という金額が男性に入る仕組みだ。居酒屋の代金はいつどれだけ飲み食いしても無料だ。夕方の店内、居酒屋にはまだ客はおらず、大将と男性の二人だけだった。

「なあ大将、今日行った子、何年くらいでシャバに戻れると思うか?」
「ん? 何だ気にしてるんか。自分で行かせといて」
「あれやろ? 最近は手足切り落とすのはやめとんやろ?」
「ん、ああ。需要が無いんやと。それよりきちんと話して、一定金額稼いだら帰っていいから頑張ろうって励ましながら働かすんやっと。真面目に働いた女は、ちゃんと金も握らせてシャバに帰してる。……警察に駆け込みそうな女は、足の筋切って一生あそこに住まわせるらしいけどな」

 そうかぁ、と力なく返事をして、男性は亜由子との会話を思い出す。素直ないい子だった。できることなら止めてやりたかったが、これも仕事だ。片足を突っ込んだら抜けられない種類の、仕事なのだ。




 同じ頃、亜由子は泣きはらした目で男たちから説明を受けていた。ひみつの小屋の存在理由は、客である金持ち連中の欲望を発散させることだ。反抗的な女は手足を切られる。素直に、真面目に客の相手をしていれば、二、三年でそこそこの大金を持ってここから帰してもらえるそうだ。警察に駆け込むようなことは考えないことだと念を押された。

 亜由子はあっと気づいた。居酒屋の男性はこの連中とグルかもしれないが、男性は何度も亜由子に合図を送ってくれていた。

「絶対に公開してはだめだよ」
「絶対に、公開してはだめだよ」
「絶対にね、後悔してはだめだよ」

 あの時男性は、亜由子を止めてくれていたのかもしれない。注意深く聞いていたなら、ここには来なかったはずだし、あの時ワゴン車にも乗らなかっただろう。一人で歩き、お花畑なんて無いじゃん! と文句を言って終わるだけのことだったはずだ。

 軽薄な考えの亜由子は、目先の欲求に勝てず、騙されたのだ。亜由子はライターになりたい夢も、嫌で辞めた派遣会社の仕事も、中途半端になったブログも、遠い世界のように感じた。そして、自分の浅はかさを省みて、心が砂のように乾燥し、さらさらと風に消えていくのを感じた。心が、現状に耐えられなくなったらしい。これから毎日、見ず知らずの男たちから蹂躙されることが亜由子にとってただただ恐ろしかった。

 正気を保つために頭の中に「ひみつの花園」を思い浮かべてはうつくしい文章をつくり、花の色を変えてはまた新しい文章をつくっていた。ぶつぶつと花の姿かたちを表現する亜由子の口元からは、一筋のよだれが垂れていた。


☆END☆


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スイミングコーチ真理子の憂鬱【4】※官能小説注意





こんばんは。novelsのブログに遊びに来ていただき、ありがとうございます。

スイミングコーチ真理子の憂鬱もとうとうこの【4】で完結です。
ここまでのお話を貼っておきますね。

 

スイミングコーチ真理子の憂鬱【1】

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スイミングコーチ真理子の憂鬱【2】 

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 スイミングコーチ真理子の憂鬱【3】

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では、ここから本編です。よろしくお願いします。 






スイミングコーチ真理子の憂鬱【4】


一ヶ月後____。


 真理子は相変わらず週五日、市営スポーツジムに出勤してスイミングのコーチを続けていた。週に二回の休みは、デリヘルではなくSMクラブに出勤するようになっていた。真理子は男の欲望をそのまま受け入れるのが好きだった。痛いことも、度が過ぎなければ耐えられる。水着になる仕事なので、身体に傷が付かないようにセーブしていたこともあって、いわゆるソフトSMの世界に真理子は身をおいていた。感じやすい身体や奉仕を嫌がらない真理子の性質から、SMクラブの方が合っているかもと義男が助言してくれたのだった。義男は店を移ってもちゃんと通ってくれていた。

 その日は珍しく真理子の出勤時間に空き時間があった。予約でいっぱいのことが多いだけに、たまにはこういう日もいいかと真理子は待機室で雑誌を読んでいた。コンコンとドアをノックする音。お客がついた時の店長の合図だ。

「真理ちゃん、次、新規のお客さんね。ちゃんと会って話したけど、すごく丁寧な人だから大丈夫だと思う。もし何かあったら教えてね」

 髪型こそホスト風だが、人の目をしっかり見て話す落ち着いた店長が言う。この人が会って話したなら大丈夫だろう。今日もお客様のためにご奉仕して、所望されたらこの身を自由に弄んでくれればいい。わたしはきちんと反応を返せる。



 新規のお客さんの取ったホテルはSM専門のホテルだった。料金が高いので、最近はここを使うお客は稀だ。お客のほとんどは、持参したおもちゃやロープで女の子と遊ぶことで満足している。真理子は店長から聞いておいた部屋をノックする。少し待つと、頑丈なつくりのドアがゆっくりと開く。


「やっぱり、真理子先生だった」

 新規のお客の顔をゆっくりと見る。忘れもしない、波多野だった。真理子は血の気が引く。店にNGを出して帰らせてもらおう。万一施設でまた会っても、知らぬ存ぜぬで通せばいい。踵を返しエレベーターへと向かう______が、すごい力で後ろから腕を引っ張られ、部屋へと引きずり込まれてしまった。廊下でやめて、離して! と叫んだが、ここはそういうホテルだ。今の悲鳴で誰かが踏み込んでくるようなことはまずないだろう。

 波多野は真理子に猿轡を咬ませ、手際良く赤い十字架へと縛り付けた。

「最初だから普通の部屋にしてあげたよ。真理子先生。産婦人科の検診台、あるでしょ? 本当はあれに座ってる真理子先生が見たかったなあ」

 真理子は驚きと不安で声も出なくなっていた。SM用の道具とは言え、十字架に固定用のベルトで縛り付けられ、身動きが取れない。
 あのスマートな波多野が、なぜこんなことを? しかし波多野が金を出して真理子と遊ぶことを選んだのならば、真理子は何をされても文句を言える立場ではない。確か六十分コースのはずだ。一時間、この男に何をされても耐えればいい。真理子がおとなしくなったのを見て、波多野は猿轡を外した。

「真理子先生、確かNGプレイは身体に傷が付くことと、後ろの穴でエッチすることだよね? あーあと汚いのもダメなんだっけ」
「……」
「じゃあ真理子先生は、これから僕に身体のいろんなところを触られて、何度もイかせられたり、僕がいいって言うまで僕に奉仕してくれたり、僕の後ろの穴を舐めてくれたり、そういうことはしてくれるんだよね?」
「……」
「答えなよ。僕はお客としてここに来て、何をしてよくて何がダメなのかを確認しているんだよ」
「……波多野さ」
「真理子先生、返事をまずしてくれないかな。僕は真理子先生の身体に傷を付けなければ、好きなように触っていいんだよね?」
「……はい」
「よし、じゃあ下着姿になってもらうよ。抵抗しないでね。乱暴したくないから」

 真理子が青ざめているのをニヤニヤと眺めながら、波多野は真理子の手を縛っているベルトを一旦外した。ブラウスのボタンをぷち、ぷちとはずしていく。ボタンを全部外すと、背後に回りこみ、ブラウスをするりと床へ落とす。ブラジャーだけになった真理子の身体を、波多野は両手でサイズを確かめるように触れた。

「やっぱり全体的に細いんだねぇ」

 次いで紺色のタイトスカートのホックに手をかけ、これもすとんと床に落としてしまう。ブラジャーにストッキングとパンティだけの姿になった真理子は、下を向いていた。

「ストッキングなんて履くんだ。これもいいね」

 波多野は真理子のブラジャーがフロントホックであることを確認すると、再び十字架に真理子の両腕をしっかりと固定した。

「真理子先生、前話したこと覚えてる?」
「……話したこと?」
「僕、中学まで水泳やってたって言ったでしょ?」
「……ああ、覚えてます」
「まずはここまでね」

 波多野は真理子のわきの下やわき腹を両手でくすぐった。真理子はくすぐりに弱い。身体をよじって逃げようとするが、両手を固定されているので逃げられない。

「いやぁ! だめ! はあッ! イヤッ!」

 真理子が声をあげるほど、波多野は楽しそうに真理子をくすぐる。上半身だけでなく内腿にも指を這わせ、身体中をくすぐり回した。波多野が飽きるまでそれは続いた。真理子にとっては頭がおかしくなるような時間だった。快感とは違う。かゆみのような、ほんの少し快感のような感触がずっと続くのだ。波多野は全然やめてくれない。いよいよ奇声を上げてイヤーッと叫んだところで波多野の手が止まった。

「真理子先生、今の声すごかったよ。そんなにくすぐったかったの?」
「ハァ……ハァ……くっ……う……」

 真理子の目に涙が滲んできた。波多野はどこかおかしい。このまま無事に帰れる気がしない。不安が真理子を襲う。涙がこぼれる。

「真理子先生、もうくすぐらないから泣かないの。顔上げて」

 波多野は真理子にはお構いなしに、今度はブラジャーのフロントホックに手をかける。

「イヤ! やめて! お願い! もう許して?」
「水泳やめた理由、話してなかったよね」
「……うん、何だったの?」
「あの頃さ、えっと僕が十八の時だから、真理子先生は中学生くらいかな。連続レイプ事件があったの、覚えてる?」
「……」
「僕の先輩があの主犯格。僕は使いっ走りをやらされてた。僕自身はレイプに参加もしていないし、もちろん捕まってもいない。事情聴取はしばらくされたけどね」
「……」
「それが僕が、水泳なんてやってられなくなった理由だよ。地元の先輩に脅されて、夜は先輩に付き合わされてた。そのうち部活にも出なくなって、僕は学校の中で悪い奴らと一括りにされるようになった」

 手をかけていたフロントホックを外し、真理子の白くて薄い胸があらわになる。波多野はすぐさま真理子の胸にしゃぶりついた。両手で胸を揉みしだき、先端を舌で丹念にしゃぶる。真理子の乳頭はすぐに固くなり、両の乳首の先端はピンと尖ってきた。カリッ、波多野は先端を齧った。

「痛ッ!」
「ああ、ごめんね。やさしくするからね」

 素っ気ない声だった。波多野は両手の指を器用に動かしながら、今度はやさしく真理子の乳首を刺激し続けた。

「真理子先生はさ、まっすぐ育ってきたんだろ? 悪いやつらに人生狂わされることもなくさ。男に食事誘われてホイホイついてくるくらいだから、さぞかし平和な人生だったんだろうな。しかし驚いたよ。日曜に真理子先生の家の近くに車停めてたらさ、真理子先生おしゃれして出かけるんだもん。尾行するつもりなんてなかったんだけど、気づいたら追いかけてた」

 波多野はよどみなく話す。そして言う。

「ねえ真理子先生、こうしていろんな男とエッチなことできて嬉しいの?」
「……波多野さん、ねえ、初めて会った時に戻りましょう? お互い仕事もあるでしょう?」
「僕が、お金を出して風俗に行ったらたまたま知ってる人だったってことと、子どもを指導する真理子先生が風俗で働いてること、どっちがダメージ大きいと思ってる?」

 真理子は指導している子どもたちの顔を思い浮かべる。だめだ。わたしが失うものの方がはるかに大きい。波多野のニヤついた顔に、真理子は観念した。

「……この時間は好きにしてください。でも、職場には言わないでください」
「いい判断だ」



 この後、真理子は再度十字架に縛り付けられ、前から後ろから、波多野の責めを受けた。無料オプションに含まれているおもちゃの類も使われ、意に反して何度もイかされた。イくたびに、波多野がニヤニヤと「真理子先生、イっちゃった?」と顔を覗き込んでくる。こんなに嫌な男だっただろうか? 

 散々責められた後、六十分の延長を求められ、店に電話をして延長となった。今度は後ろ手で縛られてベッドに移動し、波多野に口だけで奉仕をさせられた。全身くまなく舐めるように言われ、少しでもためらうと髪をつかんで「ちゃんとやりなさい」と言われた。頭がおかしくなりそうだった。おかしくなってしまいたかった。


「僕は飽きるまでこの店に通うよ。店に出入り禁止とか言っても無駄だよ。そんなことをしたら真理子先生のいやらしい姿、スイミングスクールの入り口に貼っちゃうからね? ほら」

 波多野は部屋にカメラを仕込んでいた。この日から、波多野と真理子の奇妙な付き合いが始まった。

 波多野は月に二回、真理子を予約する。二時間のロングコースだ。回を重ねるごとにプレイは激しさを増し、真理子は従順に波多野に従うようになっていった。何回目だろうか? いつものように執拗な責めが終わった後、真理子は波多野にとんでもないことを口にした。

「……最後まで、シテ……」

 波多野は真理子の髪を掴んで顔を持ち上げる。目が合うと真理子はこれまでの精神的苦痛が無かったもののように、波多野を潤んだ目で見つめた。波多野は何も言わず真理子の中に自分のモノをあてがい、沈めていった。真理子はやっと得られたあたたかい感覚に女の歓びがあふれて涙をこぼし、ただただ快感に身を任せていた。

 波多野はその時に思った。ああ、堕ちたか。つまらない女だ。優しいフリをして近づき、何らかの方法で主従関係を作り、精神的に追い詰めていくのが楽しいのに。過去に何人もの女をこうやって従わせてきたが、肌を重ねる回数が増えると女は勝手に自分に愛着を感じて、最後には自分から入れてくれと懇願してくる。女というのは頭がおかしいのか。もうこの女に用は無い。二度とこの店にも来る事は無い。面倒だからあのスポーツジムにももう行かないだろう。

 真理子にはもうすぐ平穏な日々が戻ってくる。スイミングコーチの仕事に支障が出ることもなくなるだろう。もう二度と会えない男との交わりに、真理子は情欲のすべてを吐き出し、男を強く抱きしめていた。


☆おわり☆

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スイミングコーチ真理子の憂鬱【3】 ※官能小説注意





こんにちは。novelsのブログを読んでいただいて、ありがとうございます!

「スイミングコーチ真理子の憂鬱【3】」です。
【3】も官能小説全開です。なんでかわからないんですけど、書いてるうちに勝手に官能化してしまうんです。手が……手が勝手に……!

では、【1】と【2】を貼っておきますね!

 

スイミングコーチ真理子の憂鬱【1】 

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スイミングコーチ真理子の憂鬱【2】 

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スイミングコーチ真理子の憂鬱【3】

 真理子は胸の先端を刺激されるたびに、快感がこみあげてきた。自分のものとは思えない吐息まじりの声が出てしまう。男が規則的に、くすぐったさと快感の入り混じった刺激を乳房の先端や首筋や耳に落としてくるから、もう真理子は我慢ができなくなっていた。

「真理ちゃん、一回イッちゃおうか」

 男は真理子のブラジャーのホックをはずし、上半身をあらわにした。身につけているものはパンティーだけだ。そのパンティーの中にそっと手を入れる。茂みを超えて、襞の部分にさしかかると、そこは既にぬるぬると欲望に満ちており、控えめな顔と裏腹な体の反応に、男の興奮が高まった。

「真理ちゃん、こんなにして、いやらしいね」
「いやっ……ごめんなさい、あの、シャワーに……」
「いいよ、真理ちゃんがサービスしてくれる前にちゃんと浴びよう。でも、今は真理ちゃんの我慢できないココを、先にイかせてあげるからね」
「そんな……」

 ベッドの横には大きめの鏡が張られている。男は真理子の身体を起こし、座った体制で後ろから抱くようにした。鏡に近づくようにベッドのぎりぎり端まで前にすり出ると、真理子の両足を自分の両足で開き、鏡の前で大股を開かせた。真理子の長い髪を男は胸の前から後ろに流す。

 

 乳房をさらけ出し、さっき会ったばかりの男に後ろから抱かれ、両脚を開かされている自分の姿は、ひどく淫らなものに見えた。

 男の右手がパンティの中に入ってくる。しばらく全体をゆっくりとなでまわされ、同時に乳房を揉まれる。

「あぁ……もう……ん……ダメッ……」

 焦らすように撫でまわすことを続けられ、鏡でその姿を見ていると、おかしくなりそうだった。はあはあと肩で息をしながら、細い腰をくねらせ、男の手に自分の秘豆をこすりつけ始める。男は秘豆を絶妙に避け、快感のてっぺんに昇るのを焦らした。真理子がはあはあと声の混じった吐息で泣きそうな顔をしているのを見て、男は秘豆をきゅ、とつまんだ。

「ひっ……いやぁ!!」

 真理子の身体は突然の刺激に耐え切れずに跳ね上がった。男は後ろからぎゅっと真理子の身体を押さえ、「いいよ、気持ちよくなりなさい」と耳元でささやいた。真理子は僅かに残った理性で、鏡越しに見える男に目線を送った。

 男は秘豆を指の間に挟み、規則正しくゆっくり円を描いた。乳房の先端も同じように、指で挟みこんで刺激を強くした。徐々に……徐々に……円を描くスピードを速くする。真理子のそこはもうぬるぬるとした液があふれてパンティに大きな染みを作っていた。真理子の尻の筋肉がヒクヒクと緊張を繰り返す。

「あッ……アッ……アッ……ダメ、イっちゃいそう……」

 女のイっちゃいそう、は「最高に気持ちいい」を言い換えたものであることがほとんどだ。

「鏡を見てごらん」
「アッ……アッ……イヤッ……ア、アッ、アッ」
「真理ちゃん、いいよ、イっていいよ」

 男は真理子のぬるぬるした秘豆をギュ、とつまみ、更に速く小刻みに動かした。真理子の小ぶりの尻は固く緊張し、すらりとした脚が男の足と絡んだままピン、と伸びた。
 
「アッ、アッアッアッ……だ、め……イ……くぅ…」

 ビクンビクンと腰が大きく震え、真理子の脚から、腰から、力が抜けた。汗で湿った額から長い黒髪がさらさらと流れて肩に落ち、肩から胸に流れてくる。真理子は真っ白になって、男の胸に全体重をあずけた。快感の余波が何度か手招きするので真理子は目を閉じて、快感の波が過ぎ去るのを静かに待った。



 真理子の息がおちついた頃、男は話しかけた。

「真理ちゃん。こんなにエッチなのにずっと一人でがまんしてたの? これからは僕と気持ちよくなろうね」
「はい……」

 本当は一番最初にシャワーを浴びるんだよ、とか、初めてのお客さんにいきなり襲い掛かられたら、危ないから逃げるんだよ、とか「デリヘル嬢としての基本」のようなことを男____宮間義男はシャワーを浴びながら真理子に教えた。

「義男さん、ここはどうやって洗ったらいいですか?」

 お店で一応の講習は受けたものの、実際にお客を目の前にすると、男のモノをどう洗うか戸惑ってしまった。義男は真理子の手を取り、洗い方を教えた。体の洗い方ひとつ取っても、官能を感じさせるやり方の方がいい、たまに頭を洗ってほしがる客もいる、等、シャワーを浴びながらたくさんのことを真理子に教えた。

 

「義男さんが初めてのお客さんで、良かった」
「それ、よく言われる」
「なあんだ、みんなに優しいんだ」
「もう嫉妬してるの? 」
「まあ、そんなところです」



   和やかなシャワータイムの後、真理子は体にタオルを巻き、男は腰にタオルを巻いた状態で、再びベッドに戻った。

「真理ちゃん、舐めてくれる?」

 こく、と頷くと、真理子はお店で受けた講習のとおりに、男の乳首へと舌を這わせた。指も使って、男の体を愛おしむように愛撫する。ううん、と感じる義男が愛しく感じたので、唇にひとつ、キスを落とした。

 脇腹、腰骨、太腿まで舌を這わせたあと、義男のモノに手を伸ばし、先端を少し舐める。義男に導かれて、竿の後ろや足の付け根の部分にも舌を這わせた。そして義男のモノを口に含み、喉までしっかり咥えようと動かした。

「そんなに深くしなくていいよ」

 制されたが、奥まで咥えた時に義男はああ、と快感を見せた。だから真理子はできる限り奥まで、口に含んだ。やり方はわからないが、できるだけのことをしてあげたい。力加減を教えてもらいながら、手を添えてしごき始める。義男のモノがどんどん熱くなっていく。時折長い髪をかきあげ、一生懸命に口と手で義男を愛していく。

 ベッドで仰向けになっていた義男が、真理子の腰を引き寄せる。

「そのまま、続けて」
「いやッ、見ないでッ……」

 嫌がる真理子をからかうように、義男は真理子の尻の小さな秘門を舌でつつく。

「いやッ!  本当に……」
「続けなさい」 

 突然の命令口調に、真理子は思わず身を固くし、言われた通りに義男のモノを扱き続けた。同時に秘門を舌でチロチロと舐められ、さっきイかされたばかりの秘部を撫でられる。

「うぅ……んッ……」

 真理子は義男のモノを咥えたまま呻く。僅かな理性で口と手を義男の気持ちいいように動かした。腰が浮いた状態、しかも秘部にこんなに刺激を与えられて、真理子は自分でも驚くほどに興奮していた。

「真理ちゃん、気持ちいいよ、続けて」

 義男は自身の高まりの頂に真理子を連れて行くように、真理子の秘部を口に含み、秘豆をジュルジュルと強く吸い上げた。

「……んッ!   ……んんッ!」
「真理ちゃん、出るよ……」

 義男は真理子の口の中に白濁液を思い切り出した。真理子はそれを喉で確かめると、ふっと気が抜けて、秘豆の快感のじわりとしたうねりの残りに身を委ねた。



 君が出勤している限り、僕は会いにくるから。義男はそう言い残してホテルの部屋で真理子を見送った。九十分のプレイ時間はめくるめく時間で、真理子にとって自身の欲望と真摯に向き合える素晴らしい仕事だと思った。この日真理子は義男を含め三人の客について、四万円を手にして帰路についた。


☆つづく☆

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スイミングコーチ真理子の憂鬱【2】※官能小説注意

 




こんにちは。novelsのブログへご訪問ありがとうございます。
一日5,000字書くことを目標にがんばっています。
☆をつけてくださっている方、読んでくださった方、心からありがとうございます。

では、続きを更新していきます。

【2】からはほぼ官能小説です。

スイミングコーチ真理子の憂鬱【1】 はこちら

novels.hatenadiary.com






スイミングコーチ真理子の憂鬱【2】 

 

 市営スポーツジムのスイミングコーチ兼監視をしている真理子と、たまたま真理子が監視をしているときにプールへ泳ぎにきた男。ふたりは二十二時の閉館時間後、強い雨の中帰路についていた。市営スポーツジムの出口で男は真理子が歩いて帰宅しようとしているのを見つけ、送りますと声をかけたのだった。

 ふたりは不思議な空気をはらんだ車内で並んでいたが、ぽつりぽつりと交わす会話がやっと流れはじめていた。


「中学までやっていた水泳をやめてまで夢中になったことがあったんですね。一体なんでしょう?」
「……僕の話ばっかりじゃなく、ええと……」
「真理子です。加藤真理子」
「すみません、僕は波多野慎吾といいます。それで真理子さんはずっとここの仕事を?」
「もう二年になります。たまたま今日はバイトの子が一人欠勤してしまったので代わりに監視に入ってましたけど、本業はコーチです」

「コーチか! こりゃ失礼しました。そういえばたまに早く着いたとき、小学生のスクールをやってますよね。そうか、真理子先生か」
「そんな、やめてください」
「でも実際、そんなふうに呼ばれてません?」
「……呼ばれてます」

 そこまで話したところで、車は真理子の自宅近くの交差点に着いた。

「そこを右に曲がって、薬局の看板のところで大丈夫です。そこからすぐですから」
「わかりました」

 信号待ちで止まる。右に出したウィンカーがカチカチと音を立てている。

「……あの、真理子先生」
「はい?」
「初対面であつかましいのですが、夕食はお済みですか?」
「まだです」
「良かったら、一緒にどうですか? こんな時間なのでファミレスとかになっちゃいますけど」
「……ご迷惑でなければ」
「じゃあ、この道沿いのファミレスにしましょう」


 このあたりで道沿いにあるファミレスはひとつだけだ。メニューが豊富なので、真理子もたまにそこで友人とおしゃべりをすることがあった。今日はこれからこの波多野という男とおしゃべりをする。人生どこで何があるかわからないものだと思った。ウィンカーは消え、カチカチという音も消えた。車はこれからまっすぐに、進むのだ。
 

 
 真理子が異性と二人で食事をしたのは二年ぶりだった。この日は普通にファミレスに入り、普通に食事をとり、たわいない話をしただけだったが、真理子にとっては非日常の出来事だった。目を配るつもりなどないのに、どうしても波多野の指の節や、喉仏、肩のラインなどに目がいってしまう。顔を見て話しているときは、波多野が泳いでいるときのしなやかな筋肉の動きを思い出していた。

 波多野はとても生真面目で、食事を終えると頃合いを見て「送りましょう」とスマートだった。帰り際もとてもあっさりとしていたことに、真理子は拍子抜けした。

「わたし、何を期待していたんだろう……」

 帰宅した真理子は一人、赤面した。すっぴんの市営プール職員が、たまたま雨に降られ、施設利用者が車で送ってくれた。ついでにご飯も食べた。ただそれだけのことだ。何も取り立てて動揺することじゃない。バスタブに湯を張り、鏡の前で裸になる。前髪ごと一つにまとめていた髪をほどき、両手を後頭部にまわし、自分の髪をさわってみる。頭頂部から首のところまで撫でおろし、髪を左右にわけて胸の前に垂らす。薄い胸を隠すように髪を垂らしてみると、自分の中の女性性と向き合うような気分だった。

 バスタブに浸かってからも、頭の中は波多野との会話がリフレインされていた。さっきまで他人だった男と食事をした、その事実が真理子の心にいつのまにか作られていたバリケードを壊したように感じた。「もっと、自由でいい」真理子は口の中でそっとつぶやいた。

「だけど、施設利用者はだめ。仕事場に男女のことを持ち込みたくない」

 真理子は自分の心のある部分が決壊するのを感じたが、寸前のところで一部分だけを守った。波多野とは深い仲になりたくない。今日の楽しかった時間とは裏腹に、施設の中に自分の女性性を持ち込みたくないと強く思った。わたしはあのプールでは「真理子先生」なのだから。

 バスタブの中で真理子は自分の仕事への真面目さに苦笑いした。そして、シャワーを適温にしてバスタブの中へと沈める。「ちょっとだけ……」シャワーの圧は中くらいのまま、秘部へとあてがう。少し当てただけでくすぐったくて腰がひける。いつもは湯船の中ではしない。するのはベッドの中だけ、それもたまにだ。でも今日は我慢できそうにない。シャワーの圧を少し上げる。左手で自分の小さな乳房を揉み、ひとさし指の先で先端を刺激する。シャワーを秘豆に集中して当て、快感のうねりを愉しむ。シャワーを足ではさんだまま、胸の先端を両手で刺激し、高まりが胸のすぐ上に上がってきて、少し声が出る。このままいきたい。水圧を「強」にして、シャワーを秘豆に押し当てる。胸の先端は左の方が敏感になってきて、秘豆への刺激とともに真理子を絶頂へと導く。

「んっ……イク……」

 真理子は登りつめた。視界が白くなった。バスタブの少しぬるくなった湯の中で、一瞬からだを痙攣させてすぐ、脱力した。ぬるりと滑る秘部はちっとも落ち着いてくれなくて、真理子はベッドの中でもう一度、さっきの行為を繰り返した。自分でするやり方はそんなに知らない。もっと……もっと……。真理子の中のなにかが、静かに目を覚ました夜だった。



 翌日からも真理子は真面目に勤務し続けた。受け持ちのクラスへの指導もしっかりと行い、監視のバイトにも厳しすぎない程度に「シフトはちゃんと確認すること」と注意を入れた。真理子が仕事を上がる十九時半に、波多野が泳ぎに来ていることもあった。さすがにあの夜の直後に「先日はありがとうございました、助かりました」と話をしたものの、それ以降、真理子はコーチの声を崩さずに「こんばんはー」とあいさつを返すのみとなった。波多野が何か言いたそうにしているのは感じていたが、真理子は笑顔でシャットアウトした。


☆☆☆


 木曜日。真理子は受け持ちのクラスも無く、休みだった。カーテンを開ける。光がワンルームの小奇麗な部屋に射し込んでくる。天気は良さそうだ。いつもならすぐにランニングに出るところだが、今日は行かない。出かけるのだ。

 真理子はまず電車に一時間乗って都心のターミナル駅まで出た。デパートの一階にある化粧品売り場でメイクをしてもらい、いくつか化粧品を買う。肌の手入れをする基礎化粧品を勧められたが、もともと肌は丈夫な方なので、基礎化粧品は買わず、メイクを施すものだけを買った。化粧っ気の無い白い顔に落ち着いたベージュピンクのリップがのり、頬に上気したようなチークがのる。眉は太めだがしっかり描き、目にはくっきりとアイラインを入れ、光沢のあるアイシャドウをのせる。まつげをしっかりと持ち上げたら、今まで見たことのないような洗練された顔ができていた。派手ではないが、きりっとしたモデル上がりのある女優に似た雰囲気の顔になった。

 白のTシャツとデニムでも、メイクがしっかりしているととてもおしゃれに見えた。無造作に下ろしている黒髪すら、色気を帯びてくる。真理子は自分がきちんと、きれいになれたことに満足した。

「この顔なら……行ける」

 真理子はある場所へ行く決意を固めた。デパートを出て、ショーウィンドウにうつる自分を見る。毎日プールに入っているだけあって、すらりとして適度な筋肉のついた身体は真理子の自慢だ。加えてこのメイク。真理子は仕事の顔を完全に忘れて、街の雑踏に踏み出した。


☆☆☆


「キレイだね。写真よりずっといいよ」

 四十台後半に見える営業マン風のおじさんの待つホテルの一室に真理子はいた。

「僕はね、この店に新人が入ると必ず来るんだ。若いね、いくつ?」
「二十四です」
「なんでこの仕事始めようと思ったの? 何かでお金必要になったの?」
「……いえ、お金じゃないです」
「ふうん、ゆっくり聞かせてもらおうかな」

 男は慣れた態度で真理子の後ろに回り、後ろからぎゅっと抱きしめた。小さな胸と薄いからだを確かめると、首筋に鼻をあてて真理子のにおいを確かめる。

「ずいぶん引き締まった身体だね。何かスポーツしてるの?」
「はい。……ジムに通ってます」
「胸、触ってもいいかな?」
「……はい」

 男は真理子のTシャツの下から手を差し込み、ブラジャーの上から胸をなでた。それから腹、腰にもじかに触れて、真理子の身体をすこしずつ男の思い通りに撫で回していった。

「……んっ……ふぅ……」
「真理ちゃん……お客さんがこうして触ってきても、ちゃんと先にシャワーに誘導しないとダメだよ。さあ、僕の服を脱がせてくれないか」
「はい」

 男のワイシャツのボタンを外して脱がせ、しゃがみこんでベルトをカチャカチャと音を立てながら外す。ホックを外してチャックを下ろすと、ボクサーパンツの上からでもはっきりと形がわかるほどに膨張したモノがあった。スラックスを脱がせながら、ひとさし指でつ……とモノの固さを確かめる。固い。この男はわたしとこれからする行為に、こんなに興奮しているのか。 

「真理ちゃん……エッチな子だね。いいよ、思い切りエッチになってごらん」

 静かに低い男の促す声は真理子を安心させた。ホテルの密室で二人きり。デリバリーヘルスというお店を介在した出会いだから、ここでは割り切って女になれる。普段の真面目な自分が押さえつけていた欲望は、真理子の中で巨大な獣へと育ってしまっていた。

 男のボクサーパンツに手をかけて下ろしたら、はじけるようにモノが飛び出してきた。独特のすえたにおいがしたが、真理子は男の股間に顔をうずめた。これからわたしが、射精させるモノ。わたしをもとめてはちきれんばかりになっているモノ。いとしくてたまらなくなり、真理子は男のモノに頬ずりし、唇でなぞり、両手で男の臀部を掴んだ。

「真理ちゃん、本当はシャワーが最初、なんだけど、ごめん、ちょっと我慢できない」

 男は真理子の体を抱き、ベッドへと押し倒した。Tシャツをまくり上げ、デニムのジッパーを下ろし、脱がせた。真理子のきれいな脚があらわになる。所在無さげな真理子の手を男の手でベッドに押さえつけ、真理子の顔を見下ろす。真理子の目は男を求めるように、誘うように爛爛と輝いているのに、その表情は慣れない行為に戸惑っている。男はたまらず、唇を重ねた。真理子は目を閉じたまま、男の唇の感触を味わった。少し固くて、でも薄い感触の男の唇は、ゆっくりと左右に動いていく。ふにっとした唇の感触はくすぐったく、もっとぶちゅっ、て吸い付いてほしい気持ちになった。伏せていた目を上げ、男の目に訴える。もっとして。

 男は真理子が拒絶していないことを確かめた後で、両手で真理子の両耳をふさいだ。触れるだけのキスから、唇どうしを喰むようなキスへ移行し、そのまま真理子の口内へ舌を挿入した。舌は真理子の口の中を犯すように暴れまわる。チュバッ、ジュッ、クチュ……という音が真理子の頭の中に響き渡り、真理子は息ができない苦しさと狂っていきそうな感覚のなか、男の口内で喘いだ。

 長い長い接吻の後、真理子がはあはあと息を荒くしていると、男は真理子の首筋へとむしゃぶりついた。ブラジャーを胸の上にたくし上げる。控えめに現れた白い乳房の先端には、やはり控えめな乳輪と小さな乳首があった。男は両手で乳房を揉みしだきながら、耳、首筋、鎖骨へと舌を這わせていく。乳房の先端はおあずけだ。男は真理子の中に眠る欲望の獣を見抜いていた。この仕事に就いたのは、自分の欲望を飼いならしきれないのだろう。この子はきっとしばらくこの店で働くはずだ。何度でも通ってやろう。だから今日は、僕の満足より、真理ちゃんが満足するまで鳴かせてやろう。

「真理ちゃん、されて嫌なことがあったら言ってね」

 真理子は唇を軽く噛んで、頷いた。


 男は真理子の顔をよく見ながら、乳房の先端を少し弾いた。先端に触れるたび、顔をきゅっとしかめ、唇を噛んでいる。慣れていないのだろう。こういう店で働くなら、ちゃんと鳴けるようにしておかなければいけない。

「真理ちゃん、我慢しないで。声、出していいから」
「……でも……」

 男は左の乳房に顔を埋め、先端をチロチロと舐めた。同時に右の乳房をてのひら全体で包み、時折先端を摘み上げる。

「あッ……いやッ……」

 はあはあと荒い息を吐きながら真理子の声が漏れ始める。男は刺激を与えすぎないように気をつけながら、真理子が徐々に声をあげていくのを確かめていた。先端を口に含んで転がした時、真理子は身をよじり、規則正しく声をあげて、快感に身をまかせはじめていた。


☆つづく☆
 

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君のいない日々






君のいない日々


「ただいま」
「遅かったね、また残業?」

   恭一は嫌そうな顔ひとつせず、出迎えてくれた。


「うん」
「家のことはやってあるから、早く寝た方がいいよ」

 恭一は優しい。男尊女卑の正反対にいるような、理想の彼氏だ。上品な短髪にきりっとした目。大学を卒業してからずっとある企業で庶務の仕事をしている。庶務と言っても、営業さんにパソコンの使い方を教えることから、企業ツイッターの運営まで幅広い。会社は小さいが、ニッチな分野の仕事らしく収入は安定していた。

 わたしは短大を卒業してから職を転々とし、やっと見つけた今の、派遣会社の営業の仕事で限りなく疲弊していた。風呂に入って髪を乾かす時間さえ惜しく、ベリーショートにした髪。数年、ユニクロのブラトップしかつけていないやせた胸。毎日歩き回って自然に痩せた身体。痩せていても顔は並の中レベル。化粧だけは仕事の一環でばっちりメイクだ。

正直、消耗戦のような毎日だ。しかし今の仕事をやめても雇ってくれる会社があるとは思えない。週に二回きちんと休みが取れることだけが唯一の救いだ。

 帰宅が遅くなる確率はわたしの方が高かった。わたしはどうしても、人の話をうまく切り上げて早く帰宅することができないのだ。その結果「帰りたい」と顔に書いてある状態で嫌々その場にいることになり、誰も幸せにならない。どうすれば誰も傷つける事無く自分も幸せになれるのだろう? 


「ありがとう、でも少しだけ書いてから寝たいの」
「……そう、何か食べる?」
「コンビニでおにぎり買ってきたから、書きながら食べる」
「……そう、お茶入れるよ」
「お茶よりコーヒーがいいから、大丈夫、自分で淹れる」
「凛。……何でもない。無理しないでね」


 帰宅して一度も恭一の目を見なかった。それはべつに悪いことではないと思っていた。


 凛が帰宅したのは十一時過ぎ。それからわき目もふらず凛は小説を書き続けた。夜中の二時半を回ったころ、さすがに目が半開きになってきたことに気づき、区切りのいいところで書くのを止める。それから凛は日課にしているブログに仕事のことや今の気持ちをさらさらとつづり、好きな写真を一枚選んで添え、更新する。

 小説を書くのが創造することなら、ブログは整理することだ。だからどんなに小説で書き疲れていても、ブログは書きたい。日課のようなものであり、自分が今日を生きたという楔のようなものだった。


 深夜三時。ダブルベッドにもぐりこむと、恭一は寝返りを打った。今日も全然話せなかったな。いつも家をきれいに整えてくれて、わたしが好きなことをしていても文句を言わず好きにさせてくれる。ごめんね、ありがとう。
 


☆☆☆



 その知らせは突然だった。凛の職場に病院から電話がかかってきた。恭一が交通事故で重態だという。恭一はただ郵便局に行くために歩道を歩いていただけであり、乗用車が突如歩道に乗り上げて、恭一は腹部を車と建造物とに挟まれ、出血多量の重態だという。


 凛が病院に駆けつけたとき、恭一はたくさんのチューブと口には酸素マスクがつけられた状態で家族に囲まれていた。恭一の家族には何度も会ったことがある。皆涙目で、恭一の容態を見守っている。

「恭一……」

 凛は何から話せば良いのかわからなかった。いつも家を整えてくれて、わたしのやりたいことを優先してくれていた恭一。つきあい始めた頃は、恭一と交代で見たい映画を決めて一緒に見たり、見終わった後はどんなことを思ったか、ただただ話した。お互いが今何を感じているのかを何よりも大切にしていた。

 しかし最近のわたしは、自分の中にあるものを書き出すことだけに必死で、恭一が何を考え、何を感じているのかに気を配ったことなどなかった。恭一がいるのが当たり前、恭一が家のことをしてくれて当たり前、わたしはわたしの人生を優先して当たり前。恭一がいなくなるなんて考えない。そんな確率の低いことは考えない。



「残念ですが」

 医師の声はそこから先、耳に入らなかった。恭一にもう会えない、今までは自分勝手にさせてもらったから今日からわたしが恭一に尽くすよ、なんてことも言えないし何も返すことができない。今日は戻らない。昨日の夜、わたしはなぜ、恭一と一緒に夕食をとるために早く帰ることができなかったのだろう。おとといの夜、わたしはなぜ、恭一が誘ってくれたのにDVDを一緒にみなかったのだろう。せっかくの休みに小説ばかり書いて、恭一と映画に行かなくなったのはいつからだろう。

 涙はお通夜の間も葬儀のときも恭一の家族が遺骨を持ち帰ってからも日常が戻ってきてからも、ぜんぜん止まらなかった。ただ泣いていた。泣きながらたまにジュースを飲んで、泣きながらたまにネットで買ったゼリー飲料を飲んだ。泣くだけで三ヶ月の時が過ぎた。


☆☆☆


 やっと止まった涙と、やっと感じた空腹と、久しぶりに電源を入れた携帯電話が時を刻み始めた。恭一に対する後悔はきっと一生消えない。もう、後悔しない生き方をしようと決めた。

 
 久しぶりにパソコンの電源を入れてブログを更新する。読んでくれる人は減ったような気もしたが、そんなことよりも書くことそのものが、今生きていることを紡ぐ織り機のように思えて、ずっとずっと書いていた。

 ひととおりブログを更新し終わると、つぎに小説が書きたくなった。泣いている時期は小説というものをうらんだことすらあったが、やはりわたしには小説がないと生きていけない。書かないと、わたしの時計は動かない。
 
 書いては保存し、書いては保存する。そのうちに大きな波がわたしをつつみ、ひとつの壮大な物語が浮かんできた。わたしはそれを一度書こうとしたが、このまま書いてはだめだと思い、どういう展開になるのか、どういう人が登場するのかを詳しく書いた。展開を何度も練り直し、登場人物がよりリアリティを持つよう何人かの友人と会って人間描写を深くし、ある職業については取材依頼をして知見を深めた。


 そうして書いた作品が、初めて自分で納得できる長編小説になった。書き終えた後は抜け殻のようになり、しばらく何もできなかった。

 貯金も底をつき、働きに出なければならない状態になり、わたしは初めてその小説をある雑誌社の賞に応募した。受賞すれば賞金がもらえる。その金額があればわたしは一年暮らしていける。



 世の中そんなに甘くはない。その回の新人賞は受賞作無しという結果が紙面で発表された。まあ、そうだよね。わたしは自分を納得させ、バイト探しのためネットを開く。


   恭一に言われたことを思い出す。

「無理しないでよ」
「ちゃんと食べてね」
「好きなことやってるときの凛が好きだよ」
「……今度の休み、映画見に行かない?」


 わたしは映画館でバイトをすることに決めた。お金は少しでいい。もう自分の心をすり減らして働くのはいやだし、見栄のために着飾る必要も一ミリもない。

 恭一の月命日には必ずお墓参りに行きたい。恭一の好きそうな映画を見て、一緒に見ている気持ちになりたい。恭一が生きている間にあげることができなかったわたしを、ぜんぶあげたい気持ちだ。だけどわたしが死ぬことなんて恭一は望んでいない。だからわたしは、わたしなりのやり方で恭一に「ありがとう」を伝えていく。


 映画館のバイトが終わると、まっすぐ家に帰り、鍋に残っているカレーライスを食べ、すぐ小説を書く。バイトの時間は一日七時間で、小説を書く時間も一日七時間だ。バイトのない日は一日七時間書いて、残りの時間は本を読む。月に20冊くらい読む。


 そんな日々の中、次に新人賞に応募する作品のタイトルが決まった。それは「君のいない日々」というありふれたタイトルだったが、わたしは自信があった。書き上げて印刷し、出版社に送った直後、いつもはとおらない川沿いの道を通った。そこは恭一と歩いたこともある川沿いの道だった。初夏の軽い陽射しの中、とつぜんさわやかな風が吹いた。わたしの心が鋭敏になりすぎていただけかもしれない。

 でも確かにわたしは、その風に、恭一を感じた。


☆おわり☆ 
 

 

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スイミングコーチ真理子の憂鬱【1】





こんにちは。一昨日更新した「短編小説の集い」のテーマが「雨」でした。これにかなり苦戦し、2日間ずっと雨のことばかり考えて過ごしていました。



そして本日発表されたはてなブログのお題が「梅雨の風景」……。またしばらく、違う意味で「雨」に悩まされそうです。

それでは今日も、お題にちなんだ小説を更新します。少し長くなりそうですので、何回かに分けて更新します。梅雨を無理やり絡ませた感があります。スミマセン。


今週のお題「梅雨の風景」





スイミングコーチ真理子の憂鬱【1】

 
 加藤真理子がここでアルバイトを始めたのは、単純に就職に失敗したからだ。必死で取った教員免許だったが、その年の教員採用試験に受からないと、結局学校で働くことはできないのだ。

 真理子は子どもがすきだ。彼らは純粋だから。人は成長するにつれて、賢くなったりずるくなったりする。子どもは純粋だ。不純物の構成比が低い。人を相手にする仕事につく場合、不純物の構成比が高い層を相手にするほど、心が磨耗することはきっと誰もが知っている。

 
 真理子は市営のスポーツ総合施設で働いている。一階は吹き抜けの気持ちのいいロビーになっており、河川敷に面している。三階にはマシンジムと柔道場、エアロビクスなどを行うAルームとBルームがある。そして真ん中の二階が、真理子の持ち場であるプールだ。

 ここのマシンジムとプールは会員制ではない。市民なら年齢に応じて一日200円から500円のワンデーチケットで施設を制限時間無く使うことができる。たくさん通いたい人は多めに綴ってある回数券を買うと、一回あたりの利用料を150円まで下げることができる。利用客の六割が回数券組、四割がワンデー組だ。


 真理子はこの市営プールでスイミングスクールのコーチ兼監視員としてもう二年、働いている。朝は十一時に出勤しプールの監視に入る。監視は常に二人体制なので、交代で監視の合間に水質検査を行い、水飲み場がきれいになっているかなどをチェックする。すべり台などがある子どもプールも併設してあるが、季節は六月。まだ水遊びという気分ではないのか、施設は空いていて、健康目的やトレーニング目的の大人の空間になっていた。

 午後二時に一度、三十分の休憩に入る。ここで軽く胃に何か入れておかないと、この後がもたない。スイミングコーチは体力勝負だ。ここのコーチは真理子を含め四人いるが、昼食は牛丼や多めの弁当などを食べるコーチがほとんどだ。

「加藤先生、夜まで持たないですよ、もうちょっと食べた方が」

 真理子がゼリー飲料を飲んでいるのを見てコーチの一人が言う。できるならそうしたいのだが、泳ぐ直前に牛丼なんて食べたら、プールで少し動いただけで気持ちが悪くなってしまいそうだと真理子は思った。

「胃が弱いって前も言ったでしょ? 多めに飲んどくから大丈夫!」

 真理子はひょろひょろの貧弱な体型だが、体を鍛えるためにマラソンもするし、最近では登山も始めた。胃弱体質を除けば健康そのものだ。

 お給料のいい仕事ではないので、髪は伸ばしっぱなしで前髪もぜんぶ後ろでひとつにまとめている。仕事柄、化粧の必要が無いのでメイクもしない。全体的に顔のつくりが薄く、目の色素も薄いわたしは、メイクをしないと顔がのっぺらぼうのようだ。たまにはメイクをして出かけたい、そんな気持ちを押し込めるように真理子はゼリー飲料を飲み下す。


 午後三時、ここからが本格的な仕事だ。市営プールの半分をスクール用に区切り、赤いフロアーで水深を子どもの背丈に合わせる。幼稚園の子どもたちのクラスが始まる。

「まりこせんせー、こんにちは!」

 明るいあいさつが真理子を先生の顔にする。真理子の受け持ちは少し水に慣れた子どもたちだ。両腕に赤い浮き輪をつけて浮力を借りながらも、自分の力で前に三メートル、五メートルと進む。浮き輪なしで五メートル進めたら次の級に進めるが、泳げるようになる前に水を怖がってしまうと、子どもは水泳がきらいになる。来なくなる。だから「もっと前に!」ではなく「その調子だよ!」と子どもの気持ちが常にハッピーであることを心がけた指導をするのがここの特徴だ。

 その後は午後五時、六時半に小学生を相手に本格的な泳ぎの指導クラスを受け持つ。本格的と言っても、スイミング専門のスクールではないから、「泳げるようになる」ところがゴールのやさしいものではあるが。ここで泳げるようになって、本気で水泳をやりたくて、近くのスイミング専門スクールに移る子どももいる。

 泳げない子どもは、四種目泳げるようになることを目標に、必死で泳いでいる。息継ぎのタイミングをまちがえてむせる子ども、前を泳いでいる子どもを抜こうと必死になる子ども、練習の中盤、疲れて泣いてしまう子ども。 


 夜七時半にすべてのスクールが終わると子どもたちを送り出し、プールの赤いフロアーとコースロープを元の位置に戻す。真理子はこの時間が大好きだった。子どもたちと接するときははずしている、お気に入りのミラータイプのゴーグルを付け、プール内を悠々と泳ぎ回りながらフロアーを所定の場所に集め、スロープでコースを区切る。市営プールをもとの姿へと戻していく。フロアーの赤い台は、慣れた手つきで男性コーチが二人で協力し、プールの上に出して片付けていく。

 この後はシャワーを浴びて着替えをし、一日が終わる。ここの仕事は基本シフト制だが、クラスを受け持っているコーチはほぼ、クラスの無い曜日に休みを取ることになる。真理子の場合は木曜と日曜がそれにあたる。連休が無いのは嫌じゃないかと聞かれることがあるが、体力勝負のこの仕事、五連勤するほうが体に負荷がかかる。真理子は今のシフトが気に入っていた。


 シャワーを浴びていると管理室から大学生バイトの男の子が駆けてきた。(プールサイドは走ってはいけないのだが)

「加藤さん、すみません、六時から十時の監視、近藤なんですけど、彼がまだ来てないんです。電話もつながりません。僕、六時半までのシフトだったんですけど今まで代わりに勤務してました。でもすみません、今日どうしても顔出さなきゃいけない飲み会があって、八時で上がれたらホント助かるんですけど……」

 飲み会、というのを素直に言うところに真理子は好感が持てた。六時半から今まで何も言わずに監視の代わりをしっかりやっていたのも見ていた。

「いいよ、わたしが代わる。近藤君、多分シフト勘違いしてるよね。前も一回あった。大丈夫、わたしが代わるよ。Tシャツ着てくるからあと五分だけ、いい?」

「ありがとうございます! スクールやって疲れてるのにすみません」

 真理子は更衣室で私服に着替えるのではなく、水着の上にTシャツと短パンをつけて、もう一度プールにもどる。今から監視を代わっても、最長で十時の閉館までだから二時間程度だ。監視は体力も使わないし、こういう時はお互い様だ。気持ちよく代わってあげたい。

「加藤さん、本当ありがとうございます! 近藤には俺からもシフトちゃんと見ろって言っときます!」

 大学生バイトはきちんとお辞儀をして帰って行った。他のコーチ達も、今度何かあったら俺が代わるから、等声をかけながら帰って行った。



 真理子が夜の監視に入るのは久しぶりだった。この市営施設では、スクールを受け持っているコーチは、特別なことが無い限りスクールの終わる夜七時半に勤務が終わるようになっている。毎日のことだから、コーチの体力面を考慮してくれているのだと思う。夜のプールは外からの光が入らず、人工的な電気の光だけで照らされている。窓の外はすっかり暗くなっている。

 室内にいたので全く気づかなかったが、外は雨が降り始めている。けっこう強い降りだ。夕方から降り始めたのでは、通勤帰りの勤め人はみな憂鬱になってしまうだろう。


 監視台に腰を据えると、いろんな人が泳いでいるのが見える。水泳部でならしたであろうしなやかな泳ぎの人もいれば、ビート板でひたすらバタ足をしている人もいる。誰もが水と向き合って一定の静けさを保つ夜のプールは、異質な空間のように感じた。外が暗いからかもしれない。

 安全確認を怠らないように、視線を走らせる。プールサイドをぐるり一周、各コースの人数、プールに入ってくる人には、こんばんはーと声をかけ、出て行く人にはお疲れ様でしたーと声をかける。ちゃんと見ていますよ、のしるしでもあるし、気持ちよく施設を使ってほしい気持ちもある。
 

 時刻は八時半を回った。「こんばんはー」より「お疲れ様でしたー」の方が圧倒的に増えてきたそのとき、一人の男がプールに入ってきた。年齢は真理子より上だろうか。彼は監視台の真理子に向かって一礼をした。真理子は一瞬たじろいだが「こんばんはー」とスイミングコーチ特有の声であいさつを返す。 仕事が終わって一泳ぎしたくて、この時間に駆け込んで来たのだろうか。市営なので夜は十時で閉まってしまう。着替えの時間を考えると、プールにいられるのは実質、九時四十五分までが限界だ。

 男は入念なストレッチを行い、シャワーを浴びに行った。ちらりと時計に目をやり、水に浸かる。しなやかなフォームだった。筋肉質というほどでも無かったが、普段から運動しているのかも知れない。日頃、高齢者や子どもばかりのプールしか見ていない真理子は、たまには残業もいいな、と普段とちがう感覚を味わっていた。


 スイミングコーチの仕事をしている、と言うと聞こえはいいが、実際のところ出会いは無い。コーチ同士で仲良くなる、というケースもあるにはあるが、この施設は大学生のアルバイトと主婦のパートを中心にスタッフを構成しており、真理子のようにフルタイムで働くコーチは専門職の嘱託社員として扱われ、同じ立場の人間は数人しかいないのだ。そして今真理子と同じ嘱託社員のコーチは皆、結婚しているか長年交際している相手がいる。職場として落ち着いた環境ではあるのだが、真理子にとって出会いはほぼ無い状態だった。

「やっぱりお見合いとかになっちゃうのかな……」

 目はしっかりとプールに走らせながら、真理子はつぶやいた。さっき入ってきた男は相変わらずしなやかなフォームで悠々と泳ぎ続けている。一時間この調子で泳ぎ続けたら結構な運動量になるだろう。プールからは一人、また一人と上がる人が増えていき、残っているのは「閉館ぎりぎりまでがんばる社会人組」だけになった。


 九時四十五分。真理子は監視台からゆっくりとおりて、最後のお客さんたちを見送る。申し合わせたように六人の「がんばる社会人組」はプールから上がり、真理子に会釈して更衣室へと吸い込まれていく。

「雨、気をつけて帰ってくださいね」

 見送るあいさつに一言、真理子なりの気遣いを入れた。

 プールに誰もいなくなったのを確認し、管理室のスタッフに手伝ってもらい、プール全体にビニールの覆いをかける。一日がんばったプールに布団をかけているようだ。十時ちょうどに、真理子はタイムカードを押して着替えをし、すぐに施設を出た。


 家までは自転車で十五分だ。しかし雨は想像より強い。この降りでは、自転車で傘をさして走るのは危ない。仕方ない、時間はかかるが歩いて帰ろう。そう決めて自転車は置いたまま歩いて帰ることにした。施設の門を出ようとしたとき。


「あの、失礼ですが」

 男の声がした。車の窓を開けてこちらに話しかけている。

「はい」
「監視をされていた方ですよね、プールの。僕、先ほどまでこちらでプールを使わせて頂いてました。あの、お近くですか?」

 真理子は驚いた。スーツ姿に和風で端正な顔立ちの男にいきなり声をかけられたのだ。よく見ると、さっきしなやかなフォームで泳いでいたあの男だと気づくと、真理子の胸はドキンと高鳴った。

「はい。普段は自転車です。近くです」
「ご迷惑でなければ、お送りしたいのですが。怪しいものじゃないです。この市で会社員をしています。施設の初回利用の時に本人確認もしていますから、けして……」

 自分が怪しいものではないことを必死で説明しようとするのがおかしかった。真理子の施設では、初回利用のとき、市内で働いている人は社員証、市内在住の人は免許証などの提示を求められる。提示が無い場合は施設は使えない。

「……あの、でも大丈夫ですから」
「こうしている間も濡れてしまいます、本当に、乗っていただいたら免許証もお見せしますから、とにかく乗ってください」

 男は車から降りて助手席側に回り、ドアを開けた。勢いに負けて真理子は助手席に乗り込む。男が運転席に戻ると、財布を取り出し、免許証を真理子に渡した。もうひとつ、近隣の住所が書いてある社員証も渡してきた。

「この先の国道を左に曲がったところにあるビルですよ、僕の会社。ここは会社から近いので週に二回ほど使わせてもらってます。住所は免許証の通り。ここからだと車で四十分くらいです」

 空港の出入国カウンターでパスポートと本人を見比べさせるような慎重さで、男は真理子に向かって身を乗り出した。

「……律儀な方ですね。大丈夫です、怪しい人だと思っていたら乗りませんから」
「なら良かった。ご自宅はどちらの方ですか?」
「ええと、真っ直ぐ行って国道手前で右に曲がったあたり、です」
「わかりました。まずそのあたりまで行きますから、そこでまた教えてください」


「いつもこんな風に、困っている人を見たら助けるんですか?」

 沈黙を破ったのは真理子の方だった。

「気づいたときはそうします。いつも気づける余裕があるようにしているつもりだけど、どうしても気づけない時っていうのもありますから。だから、いつもではないですね」
「泳ぎ、上手ですね」
「見られてましたか。本格的にやってたのは中学まで。結構好きで。高校からは全く別の方面に夢中になってしまって、やめてしまいました」
「別の方面?」


☆【2】へつづく☆


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