ペイ・フォワード! 巨根を未来へ見送った日。
こんにちは。
今日もこうしてこっそり書いてます。たまに会いにきてくれたら嬉しいです。
※写真はイメージです
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ペイ・フォワード! 巨根を未来へ見送った日。
こんにちは。レイコといいます。私事ですが、そもそもわたしは巨根が好きではありませんでした。二十代のはじめに一度、開けてみたら巨根だったことがありましたが、入れると痛くて痛くて、するのがつらくて仕方なかった。巨根とした頃から、行為自体が嫌いになってしまいました。その巨根はすぐに酔っ払ってゲロを吐くし、パチスロばかりしていたのですぐ別れました。
その後わたしの人生にしばらく巨根は回ってきませんでした。まあ確率論ですからね。
しかし、20代さいごの歳……とうとうわたしに巨根が回ってきました。
すっごいおとなしそうな男性だったので、まさかと思ったのですが、開けてみたら巨根でした……。しかも平常時からかなりデカい。これが大きくなったらどうなるんだよ……と恐ろしくなるような巨根。
その巨根とは、短期アルバイトで知り合いました。接客のアルバイトだったのですが、巨根はとてもおとなしかったので、接客で困っているときはわたしが手助けしました。逆に、連絡事項などをわたしが聞き漏らしていた時など、巨根がそっと横から教えてくれました。翌日の集合時間が変わったときなども、帰り際に小声で、
「レイコさん。朝聞いたと思うけど、明日は30分早く出勤だから、気を付けてね」
と教えてくれました。わたしはすっかり忘れていたので、巨根がこうして教えてくれなかったら怒られていたと思います。そんな感じでお互い助け合って短期バイトを乗り越えました。この頃は、まだ巨根とどうこうなるなんて思ってもいませんでした。
アルバイトの最終日、巨根はわたしにメモを手渡してきました。小さな文字でメールアドレスが書いてありました。みんなに配っているんだろうと思い、気にしませんでしたが、一応「10日間ありがとうございました」と一言だけメールを送りました。
巨根はすぐに返事をくれました。
「接客で助けてくれてありがとう。レイコさんのおかげで楽しかったです。良かったら食事でも行きませんか?」
あらら……なんだかそういう感じになってる。
季節はもうすぐ春。ある程度、恋愛の酸いも甘いも嚙み分けたつもりになっていたわたしでしたが、一瞬だけ胸がトクンと鳴りました。そういえば短期バイトは7人いたけど、彼と一番話したかもしれない。意識してなかったけど、休憩時間が一緒になったときは食堂で近くに座るようにしてたかもしれない。彼のことが、嫌いではなかったのかもしれない。
わたしと巨根は数日間メールのやり取りをし、思ったより家が近いことがわかりました。お互いの中間地点にある駅で食事をしようという話になりました。
初めて外で会った巨根はアルバイト中と変わらず大人しくて、自分から話すことのない人でした。それでも、隣に並んだとき。歩いているとき。ふと会話がはずんで笑ってくれたとき。巨根は飾らない笑顔を見せてくれました。当時のわたしにとって、その笑顔はかけがえのないものでした。
男女の進展は何もないまま、3回目のデートをしました。
行く場所もごはんを食べるお店も、巨根は自分から意見を言うことがありません。しかしある時から気づきました。二択で選んでもらったり、少し巨根の言葉を待っていると、ちゃんと自分の意見を言ってくれることに。わたしはせっかちな自分をおさえ、巨根の言葉を一呼吸、待つようになりました。
巨根はやっと自分のことを話すようになりました。
わたしたちは夜の公園で、初めて手を繋ぎました。繋いだ手の感触は、人特有のぬるい体温でした。季節は春。早咲きの桜が夜空を彩っていました。
そのまま、夜の街にあるホテルへ行きました。アルバイトで知り合った無口な男の人と、とうとう体の関係を結ぶのだと思うと、この丸くて広い地球上で男女がめぐりあうのって、実はとても簡単なことのように思えてきました。
彼はまるで逆で、こんなことがあるなんて……という顔をしていました。
ホテルの部屋のドアを閉めると、彼と二人の空間でした。夜の時間だったので、休憩も宿泊も金額が変わらなかったので宿泊にしました。明日の朝まで、無限に広がる夜の時間が手に入った……そんなふうに思いました。
わたしからキスをするのは簡単なことだけれど、待っていました。しなくてもいいお風呂の支度やアメニティの観察をしていると、
「……」
吐息だけで彼が話しかけてきました。きた、と思いました。
そこからは流れるようにすべてがはじまった。最初に触れるだけのキスをしてしまうと、もう止まらない。どちらかがほんの少し、口を開けばキスはすぐに深くなる。キスをしながらだと相手の体に触れることがとても自然なことになる。
彼の体はとても熱くなっていて、服の上からでも体温を感じられた。あれ、こんなに背が高いんだ……こんなに肩の骨格がしっかりしてるんだ……とドキドキが止まらなかった。
彼の両手はわたしのからだをゆっくりとすべるように動き、その手がとても優しいと思った。ふだんの行動もゆっくりだけど、こういうときもゆっくりなのね……そんなことを思っていた。
彼の頬にキスをしたとき、それまでまったくの無臭だった彼から、男のにおいがした。耳の前あたりの皮膚のにおいを、わたしはいとおしく嗅いだ。髪に顔をうずめるようにすると、やっぱり彼のにおいがして、わたしはすごく幸せな気持ちになった。
……ふと、視線をおろすと。
彼の履いているデニムが変形している。明らかにおかしなふくらみが股間にできている。わたしは超真顔になり、そこを凝視した。
「あんまり見ないで……大きくなっちゃった」
いや、大きくなったというレベルなのかこれは。正直開けるのが怖い。絶対ミル貝みたいなのが出てくるよこれ。
※ミル貝
「……シャワー、浴びよっか」
「うん」
「……一緒に浴びる?」
彼の問いかけに、わたしは少し悩んでうなずいた。そのままベッドへ行くのが怖すぎたので、シャワーのときに少し目を慣らしたほうがいいかもしれないと思った。
彼が洋服を脱ぐのを一枚一枚、手伝った。最後のボクサーパンツを脱いだとき、ミル貝は一度下に引っ張られ、びゅん! と大きく天に向かって反った。
デカい……。
わたしも服を脱ぎ、シャワーでミル貝をチラチラ見ながら彼の体を洗った。途中、彼の背中を流してあげたとき、美容院の話など、友達の口調で世間話をした。彼が振り返ったとき、ミル貝はだらんと下に垂れていた。性的なことから関心がそれると縮むようだった。
(平常時でもそこそこ大きなミル貝だけど、大きくなったときがすごいんだ……)
わたしは意を決して巨根を洗った。みるみる手の中で力強くふくらんでいく巨根に、男の強さを感じた。おとなしくて、接客中もうつむき加減で、まじめだった彼。こんな巨大なモノを持っていたら、もっと傲慢になっても良さそうなものだ。
互いを洗い終え、ベッドへ戻ると、もうそこはめくるめく世界があるだけだった。
キス、キス、キス。受ける、感じる、与える、うるおう。
そして、ひらく。
彼は手を口元に持っていき、そのあと自分の巨根の先端を撫でた。たぶん巨根の先端に唾をつけたのだ。わたしは胸がちくりと痛んだ。そういえば彼は言っていた。昔付き合っていた彼女が、セックスが好きではなかった、だからあまりしなかった……と。
もしかして、彼は巨根であることがコンプレックスなのではないだろうか。彼女と別れたことも「ふられちゃった」という言い方をしていた。彼は、彼女に受け入れてもらえなかったことをとても悲しい思い出として抱えている。
わたしは絶対に彼を受け入れないといけないと思った。
彼に本来の自信を取り戻してほしいから。自分らしく誇りを持って、生きてほしいから。だからこのセックスは成功させなければいけない。わたしは目を閉じて、彼をぜんぶ受け入れようと、目を閉じて身体をひらいた。
ゴリッ
……想像を絶する痛みがあった。男性経験は多い方だったが、それでも、その巨根をするりと受け入れることはできなかった。必然、身体に力が入ってうまくいかない。
笑え。
うまくいかないときほど笑え。
わたしの中の女が覚醒した。彼を見るととても不安げな顔でわたしを見ていた。わたしは少しだけ笑って、「痛くない」と言った。彼はそれでも不安そうだ。
「痛くてもいい、ぜんぶ入れて」
彼の首に腕を回し、わたしは海の中にいるときのように身体の力を抜いた。巨根がじりじりと、入り口から中へ入ってくる。カリ首のあたりまではものすごい痛みがあったが、そこを受け入れてしまうと、女の壺は本当に壺のように巨根を受け入れた。入口付近より、中がきちんと濡れているかどうかが実は大事で、カリ首を飲み込んだあと、中でぬるぬると男が動ければ、あとはうまくいくのだ。
わたしは巨根を奥まで飲み込んだことがうれしくて、巨根が腰を動かしている時間も、一度引き抜いたときも、再度ずぶりと入ってきたときも、ずっと快感の波に飲み込まれていた。
巨根は何度か激しく腰を打ち付けたあと、わたしの上に覆いかぶさるようにし、耳元で小さく「いく……」とささやいた。巨根はわたしの中で果てた。最初から最後まで優しかった巨根に、わたしは心から惚れてしまった。
このときわたしは決めた。
巨根が自信を持って生きられるように、何でもしてあげようと。
巨根がしてくれたことには必ずお礼を言う。巨根の話をよく聞く。巨根に嘘をつかない。素直な自分をぜんぶ見せる。巨根が幸せを感じる時間をなるべく多く作る。
巨根を幸せにする。
退屈な日々に花を彩るように、巨根とわたしは付き合いを深めていった。最初はぎこちなかった会話や食事も、回数を重ねるたびにどんどん近づいていく。お互いの好きなものや苦手なものがわかってくる。アクシデントがあっても相手を思いやる気持ちを忘れずにいると、巨根はわたしに思いやりをたっぷり返してくれる。
巨根はそういうレスポンスがとても早い男の人だった。わたしが喜んだことを覚えていて、必ずまたしてくれた。それは日頃のデートの中でも、夜のベッドの中でもしっかりと発揮された。
わたしはほんとうに、巨根のことが好きになってしまっていた。意識して体の力を抜かなくても、巨根とするときにはきちんと、あそこが巨根のかたちになった。あそこが痛いときもあったが、巨根はそういうとき、わたしを丁寧に愛撫してくれて、ふたりが気持ちよくつながれるようにしてくれた。もう、痛いと言われたらやめてしまう巨根じゃなかった。巨根は毎日、どんどんいい男になっていく。これ以上いたら、わたしは離れられなくなるだろう。
「そろそろ、別れよっか」
紅葉のうつくしい秋の山道。温泉宿で一泊した翌日にわたしは切り出した。もう巨根にわたしは必要ないと思った。桜の季節につきあい始めて、紅葉の季節に別れる。こんな美しい始まりと終わりがあるだろうか。
わたしには一人の時間が定期的に必要になる。わたしの方も、そろそろ巨根に溺れている自分から一歩踏み出したかった。
巨根は「なんで……?」と言ったまま動かない。一緒に食べたおいしいものや一緒に見た美しい景色、楽しい思い出が胸に熱く蘇ってくる。ぜんぶ、昨日のことのようだ。いや、わたしがこの手を離さなければ、あと何回かおなじ季節を二人で過ごせるのかもしれない。わたしの中の女が、巨根と離れたくないと泣いた。
わたしはかぶりを振って巨根に向き直った。
「いっぱい、可愛いって言ってくれてありがとう。いっぱい、いろんなところに行ってくれてありがとう。いっぱい、愛してくれてありがとう」
この先が言えない。泣きたくないのにしゃくりあげてしまう。
「これからは、あなたが本当に好きになった女の子と、幸せに生きて行って」
巨根は首を横に振り、僕が好きなのはあなただ、と言って肩を抱いてくる。ああ、どうしてわたしはこの人と一緒になろうとしないんだろう。この感情はなんなんだろう。
ああ、自分に自信がないのはわたしのほうだったんだ。
わたしではこの人を本当に幸せにすることができないから。だから彼には新しい恋を始めてほしいと思っている。わたしは、本当に好きなこの男から逃げようとしているんだ……。
言いようのない気持ちに支配されていたが、わたしの心は決まっていた。
「次に付き合う女の子を、うんと幸せにしてあげてね。それがわたしの幸せ」
わたしは巨根の手を一度だけ握手の形でぎゅっと握ると、そのまま背を向けて歩いて行った。振り向けば、まだそこに彼がいるだろう。うつくしい紅葉のじゅうたん、山の澄んだ空気の中に、周りの空気まで優しくする彼がいる。わたしのちっぽけな自我なんて捨ててもう一度抱きしめてもらいたかった。でも、そうしたらわたしは自分を裏切ることになる気がして、結局、振り向かないまま駅につき、一人で電車に乗って一人で帰宅した。
ベッドに入って、わあわあ泣いた。最後までかっこつけて馬鹿みたいだと思った。それでも、あの景色の中で自分からバイバイを言って、新しい世界へ見送れたことは、きっと彼にとって本当に幸せな世界への第一歩だと思う。
あなたの優しさは、女性を誰よりも幸せにできる。
あなたの素直さは、女性をきっと素直にする。
あなたの巨根は、女性をあなたのとりこにする。
ペイ・フォワード。
彼は前より少しだけ素敵な男になったと思う。次に付き合う女性が、彼と幸せな時間を過ごせますように。
泣きじゃくりながらわたしは、ペイ・フォワードと何度も繰り返していた。
完