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お題にもとづいた短編小説やふと思いついた小説を不定期更新します

短編小説「ヒト型ロボット ロマンティック配送」

 

こんにちは、かんどーです。
愛のあるヒト型ロボットと暮らしたらどうなるかなーと思いを馳せて書いてみました。

 



ヒト型ロボット ロマンティック配送

「猫型ロボットの時代は終わりました! これからはヒト型ロボットが、あなたのあらゆるサポートを行います! 素晴らしい時代の幕開けです!」

 甲高い声でアナウンサーが原稿を読み上げている。インターネットだって一般人への普及に10年かかったじゃないか。ヒト型ロボットだって、まず介護業界やらに導入されて、それから医療、サービスへと普及していく。個人としてヒト型ロボットを所有するころには、わたしは更年期よ……とユリはひとりごちた。

 ユリは荒んだ心で埋め込み式液晶ディスプレイに向かって「オフ!」と言った。このディスプレイは音声でオンオフができる。今年35歳になるユリは、最近このディスプレイに買い替えた。リモコン操作の必要がなく、ディスプレイに向かって声をかけることで、思い通りのものが観られる。非常に便利だ。「いつもの」と言えば録りだめしてある番組リストの古いものから順番に再生してくれるので、録りだめしているものを見忘れることもない。


 ユリは性欲の強い女性だ。20代の頃はそれなりに男遊びをしていたが、性行為はあまり楽しめなかった。舌を使ったり使われたりするのも嫌いだったし、あっさりと終わらせてほしいといつも思っていた。

 そんなユリが、30歳になったのを境にどんどん性欲が強くなっていった。ユリ自身最初はその欲求を持て余してしまい、好きでもない男と「酔った勢い」でしてしまうこともあった。しかし男は一度体を許すと偉そうな態度になることもあり、関係を切るのが面倒だと思い、男遊びもしばらくやめていた。

「はぁ。一人だと日曜もヒマ……」

 ユリはすることもなくソファに横たわったが、すぐに何かを思い出したようにベッドルームへ行った。エアマグネットという特殊素材で空中に位置を固定できるタブレット端末を、見やすい位置に調整してベッドに横たわる。タブレット端末を五本の指で複雑になぞると、いつもユリが観ている動画サイトへとジャンプした。

 ユリは「男に舐められる動画」が大好きでよく観ていた。シチュエーションは様々だ。女が主体となって命令して舐めさせている動画もあれば、女は嫌がっているそぶりなのに舐められ続けてイカされてしまう動画もある。ユリは無理矢理舐められるのがお気に入りだ。迷わずそれを再生した。服を着たままの女性が男性に組み敷かれてパンティを下ろされている。

「はあ……イヤ……」

 口ではイヤと言っているが、これから男にされることを想像して喜んでいるように見える。男性は手早く女性の両足を広げ、女性の股間に顔を近づける。しばらくにおいをかいだあと、細く舌先を出して女性の股間をチロチロと舐め始めた。

 長い時間をかけてようやく中心部にたどりつく頃には、動画の中の女性は完全に堕ちていた。透明な液体を股間から垂れ流し、快感を求めるただの女になっていた。ユリはここまでしっかり動画を観てから自分でするのが好きだった。

 動画の中の女性は、男性に中心部を吸い上げられてキャアと嬌声をあげた。ユリは手元の電気マッサージ機のスイッチをオンにして、動画の中の女性と自分をリンクさせる。下着の上から、当たるか当たらないかの刺激で陰核の感度を高めていく。そのうち我慢が出来なくなり、ユリは動画から目をそらし、電気マッサージ機を陰核にぎゅっと押し当てた。つま先から小さなふるえが起こり、やがて陰核そのものが大きな波を起こし、ユリの身体全体に快感をいきわたらせていく。ユリは陰核からの快感に一気に飲み込まれ、小さく「んっ」と声をあげ果てた。

 一度果てたユリは、身に着けているものをすべて脱ぎ捨て、全裸の状態で陰核や陰裂を電気マッサージ機でなぞる。振動を強くし、陰核だけでなく陰裂にも快感をいきわたらせる。ユリは空いた左手で右乳首を丹念に刺激し、そのまま再度果てた。その体制のまま、ずっとずっと電気マッサージ機を動かし続けていた。ユリはこの体勢で10回以上イカないと満足しなくなっていた。

「んーっ!」

 12回連続でイキ続けたユリは、息を整えながらようやく電気マッサージ機の電源を止める。動画再生も止めた。タブレット端末を元の状態に戻そうとすると、画面の端に小さく「ヒト型ロボット申し込み受付中」の広告が光って見えた。ユリが観ていたのはまぎれもない、エロ動画だ。どうせ男のためのロボットだろうと思ったが、イキ疲れてあとは眠るだけだったので、試しにとその広告を指でタッチした。


「ご検討ありがとうございます。こちらは個人向けヒト型ロボットのサイトです。あなたは女性ですか?」

 画面上にそんな文字列が浮かぶ。男性向けではないのか。ユリは「はい」をタッチした。その後の質問は、信じられないものだった。

「陰核をなめられると気持ちがいいですか?」
「指を入れられながら陰核を舐められるとイキますか?」
「舐められるのとは別で、指でもイカせてほしいですか?」
「何回イってから挿入されるのが好ましいですか?」
「イクときに男性からキスで口を塞がれると興奮しますか?」

 この5つの質問に答え終わると、今度は別の質問が出てきた。

「あなたのパートナーとなるロボットは、20代、30代、40代どれがよろしいですか?」
「陰茎の大きさは20センチ、25センチ、30センチどれがよろしいですか?」

 この質問もすぐに答え終える。また別の質問だ。

「幼稚、甘えん坊、優柔不断、フェミニン、おやじギャグ、ムードメーカー、エッチの最中に会話する、男らしい、力強い、ときどき強すぎる愛撫をする、あなたを縛りたがる、おっぱい星人、この中で好ましいと思う性質をタッチしてください」

 画面に一度「お待ちください」と表示され、しばらく待つと一人の男性の写真が出てきた。顔写真と全身の写真だった。どこかの河川敷で撮影した普通のフォトグラフだった。比較的男らしい顔に、高身長の30歳くらいの男性が映し出されていた。表情はあどけなく、どこかおとなしそうな雰囲気だった。



「彼を使いますか?」



 ユリは後ろにのけぞった。彼を……使う!? 画面をスライドさせていくと「彼」の充電方法や初期費用などが載ったページに移った。どうやら女性向け性的玩具としてのロボットらしい。初期費用は、アパートを借りるときの初期費用くらいで、月額料金は携帯電話2台分くらいの料金だった。高額だがけして払えない金額ではない。何より、1週間一緒に暮らしてみて、合わないと思ったら無条件にクーリングオフできるというのだ。

「1週間だけなら……」

 ユリは配送手続きの画面へと進んだ。オプションに「ロマンティック配送」というのがあり、興味を持ってタッチすると、フル充電された状態で、駅で待ち合わせができるという。彼が持っている液晶端末にサインをするとそれで配送完了となるらしい。自宅に大きな荷物が届くより、駅で待ち合わせをした方が気楽だと思い、ユリは「ロマンティック配送」を選択した。



 約束の日。ユリは仕事を終え、夜の7時に駅で待っていた。ふと、ユリのすぐ近くに見覚えのある顔が立っていた。河川敷で撮った写真そのものの、やわらかな笑顔の青年がそこにいた。

「ユリさん、ですね。はじめまして」
「ああ、はい、えっと」
「いろいろ聞きたいことがありますよね。ご自宅で話しましょう」

 男はくすりと笑いながら液晶端末を差し出した。ユリはそれにサインをする。「ロマンティック配送」の男はユリをエスコートした。帰り道、ユリが質問すると男は答えた。あまり複雑なことは答えられないかと危惧したが、ほとんどの会話が成立した。唯一、ロボットなの? などの質問に対しては首をかしげて微笑むだけで会話が終わってしまった。


 ユリは自宅に男を招き入れ、お茶を出した。男はお茶を少しさましてから飲んだ。食べ物も食べることができるし、味もわかるそうだ。ただし、珍しい料理の場合、美味しいかどうかの判別がつかないことがあるらしい。その場合はただ飲み込んでしまうという。

「ユリさん、僕に名前を付けてください」

 唐突に男は切り出した。ユリは一瞬うろたえたが、すぐに呼びやすい名前をつけた。

「あなたの名前は、ヨシ君よ」

 ユリが前につきあっていた男の名前をそのままつけた。自然消滅のような別れ方だったので特に嫌な思い出というわけでもない。ただ呼びやすかったのでつけた。どうせ一週間の付き合いだ、という思いもあり、名前はすぐに決まった。

 ヨシ君、と名付けられた男は自然な態度でユリに抱き着いた。名前を決めてくれてありがとう、仲良くしようね、と耳元で囁いた。ユリの体温が上がるのを感じ取ったのか、男はユリを抱き上げ、ベッドに運んだ。

「すみません、今すぐユリさんを抱きたくなってしまいました」

 ユリは自分の下半身がカッと熱くなっていることに気づいた。ヨシ君の声は電子音じゃないし、ヨシ君の体は冷たくない。今のところ性格も、注文したとおりのものが来ているようだし、エッチも期待できそうだ。



 男の愛撫はそれまで出会ったどの男よりも上手だった。生身の男はどうしても、ユリがイキそうになると動きを変えたがった。そのまま同じ動きを続けてくれればイケたのに、動きを変えられたせいでイケなかったことが何度もあった。自分の工夫で女がイク瞬間が見たいのだろうが、ユリはそれが不満だった。

 ヨシ君は、ゆっくりと同じ動きをユリがイクまで続けた。最初は舌でユリの陰核をイカせて、その後は指を使って陰核と中のスポットを同時に刺激した。中と陰核の両方でイクのは自慰ではできないので、ユリは髪を振り乱し、乱れた。

(こんな単調な動きなのに……!)

 ヒト型ロボットに簡単にイカされるなんてイヤだと思っていたが、ヨシ君と名付けたそれは、時折体を密着させて、ユリの胸に顔をうずめたり、ユリの耳元で「かわいいです」とささやいたりする。ユリはヨシ君のくれる快楽を、全部受け入れようと覚悟を決めた。

「あっ……ダメ、イク……」

 一度陰核で絶頂に達しているので、かなり早いタイミングで中でもイケた。まだガクガクと体がふるえているのに、ヨシ君はもう陰核を手のひらで包んでゆっくりと円を描き始める。ユリはイッた後の余韻に浸る暇もなく次の快楽の波へと押し上げられた。

「やっ、そこ、またイク……んんっ! ……あ、そんなすぐ、や、やぁっ……アッ」

 ユリは陰核だけで2回連続でイカされた。間髪入れず、今度は胸を吸われながら陰核に強めの刺激を与えられた。この刺激ではイカないだろうと深呼吸していたユリの体に異変が起こった。陰核を強く押されているだけなのに、すぐに絶頂に押し上げられてしまうのだ。

「イヤ! だめ、その、強く押すの……イヤッ! ダメッ……アッ、イク……」

 陰核をぐりぐりと押されるのは大嫌いだったはずなのに、それまでの流れでイク体が作られているのか、ユリの体はどんな愛撫も受け入れられるようになっていた。

「ユリさん……感じやすくなっちゃった? ……すごく可愛い……」

 男はユリの肩と乳房を撫でながら、耳元でささやいた。



 その後の挿入も見事だった。かなり大きいサイズを選んでしまったのだが、痛いのは最初だけだった。たっぷりと濡れたユリのあそこは、男のモノをギュっと咥えこんで、与えられる摩擦の刺激はこの世のものと思えぬほどに甘美だった。摩擦の刺激の後には、奥の一番感じるところをきっちり突いてきた。ユリは奥でイッたことがなかったので、

「イヤ、怖い……怖いよ……」

 と言って男にしがみついた。男は「大丈夫だよ、力抜いて」と言い、奥を何度か突いていった。ユリは経験したことのない高みに押し上げられ、甲高い声を上げて背中を思い切りのけぞらせた。そして、そのまま深い眠りの中へと落ちていった。




「……ん、今何時?」   
「まだ5時半ですよ、ユリさん」

 目を覚ましたユリは、自分の隣に男がいること、男がとても優しい目で自分を見つめて、腕枕をしてくれていることに驚いた。しかし男の優しい目を見ていると、ユリの気持ちも優しくなって、自然に男の胸に甘えた。たくさんの快楽をくれて、こんな充足感までくれる男。この男がいる生活がほしい……一週間で手放したくない……そう思った。

 

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 2日目も3日目も、男は完璧な「ユリの彼氏」を務め上げた。4日目の朝、ユリは鏡で自分の顔を見て驚いた。肌がプルプルと潤っている。どんな高級な美容液よりも、満足できるエッチは効果的なのだ。

 5日目の朝、ユリは会社へ向かう電車の中で「返品方法」を確認した。今日は運よく座ることができたので、タブレット端末の操作がしやすい。

 「ヒト型ロボット」のページに行き、返品・交換のところをタッチする。大抵の大型商品は、自宅まで業者が受け取りに来るものだ。名残り惜しいが今回は返品して、生身の相性の良い男を探そうと思った。これだけの快楽が手に入っても、最後に結ばれることができず、自分だけ年老いていく。レンタルを開始したとしても、いつかは返品する日が来るのだ。それならば一緒に老いていく生身の人間と過ごす方がいい。考えた末の結論だった。ユリは返品手続きの画面を開き、返品理由を適当に書き「返品する」をタッチした。

 そのとき。画面に赤い警告画面が出た。

 「ロマンティック配送をご希望されたお客様は、返品方法が通常と異なります。以下の3つのシチュエーションから一つ選び、ご自宅の近くにて実施してください。実施が完了すると自動で返品処理が行われます。(以下の動作を行うとロボットはあなたの前から完全に消えます)

1.レストランで喧嘩をして席を立ち、ロボットを置き去りにする
2.駅の改札で平手打ちをし、ロボットを置き去りにする
3.河川敷で「あなたとは付き合えない」と言い放ち、ロボットを置き去りにする」


 ユリは青くなった。なんだこの面倒な返品手続きは。たかだかロボットを返品するのに、こんな面倒な手順を踏まなければならないとは! しかし今日が5日目だから、今日か明日にはこれを実施しないと、購入したとみなされ、料金がかかってしまう。面倒だから今日帰宅したら返品してしまおう……ユリはそう考えた。


 ユリは一日の仕事を終え、帰宅した。5日目ともなると、男も慣れた様子で食事を作って待っていた。

「ユリさん、お帰り! 今日はパスタだよ、すぐ仕上げるね!」

 男は和風パスタを手際よく仕上げに入った。二人で食事を終えると一緒にお風呂に入り、そこから夜のサービスが始まる。ユリは、お風呂に入る前に散歩に連れ出そうと考えた。 

 パスタは見事に美味しくできていた。男はユリが美味しそうに食べているのをにこにこと見つめてから、自分も食べ始める。「サラダも食べて」とユリの健康を気遣う様子を見せる。何から何まで、ユリの好みの男そのものだ。今夜も抱かれたい。毎日この男に抱かれたい……!

 しかしユリは心を鬼にして、食事の後すぐに男を河川敷へと連れ出した。男の足取りは終始重かった。男は、自分がこれからどうなるのかをわかっているようだった。河川敷が見えてくると、男は足を止めてつぶやいた。

「さよなら……するんだよね」
「うん……短い間だったけど、ありがとう」
「どうしても……さよなら、しないとだめ?」

 ユリは驚いて目を見開いた。まさかロボットがこんなことを言ってくると思わなかったのだ。人気の無い通り、男はユリに抱き着いて耳元で泣くように言う。

「僕を……捨てないで……僕、ユリさんをもっと幸せにできるように頑張るから。ユリさんの気持ちをちゃんと理解できるように頑張るから……」
「ごめん、今回は、さよならだよ。こっち来て」

 ユリは河川敷まで男を引っ張っていき、大きな声で言った。


「あなたとは付き合えない」


 ユリの脳裏に、某ジブリ映画の決め台詞が浮かんだ。カタカナ3文字の滅びの呪文。それを言った気分だった。男は電池が切れたかのようにその場に座り込み、もうユリを見ることはなかった。ユリも振り返らずに家路を急いだ。ユリは少し泣きそうになったが、5日間で離れたのが良かったのか、気持ちに折り合いをつけることができそうだった。ユリは帰宅してすぐに婚活サイトに登録し、生身の男を探すことにした。





「ロマンティック配送、意外と解約抑止にならないねぇ」

 河川敷に現れたスーツ姿の男が、ヒト型ロボットに向かってぼやいた。ヒト型ロボットはうつむいたまま顔を上げることもない。これから工場に戻されて、痛みと苦しみが交互に訪れる電流に繋がれることがわかっているからだ。ロボットの暴走を防ぐためと、人間の女に尽くすことを幸せと感じられるよう、出動時以外は常に苦しみの下に置かれることになっている。開発者もそんな管理方法は嫌だったが、それ以外の管理方法だと、出荷した後で態度が生意気になったり、返品が相次ぐことがモニター試験でわかっている。仕方が無いのだ。

「今度は解約方法をもう少し複雑にして、早く出荷できるようにするよ。ロマンティック配送に対応しているのは君たちディカプリオ型だけだから、すぐにまた出荷になるさ」

 スーツ姿の男はロボットの首に「A-285 ディカプリオ」という名札をつけ、肩をぽんぽんと叩いて車に乗せる。「ディカプリオ型」と呼ばれたそのロボットは、精巧なつくりの眼球からひとすじの涙を流し、さようならユリさん、と小さくつぶやくと、自分の電源を落として記憶をリセットした。